[91] 武利岳(1876m) [丸瀬布コース]97、8、7
 
雷と豪雨に襲われ、やむなく8合目で無念の撤退するも、「日本1000山」挑戦者に出会う。

2:15 札幌発(石北峠経由)
7:10 登山口著
登山地点下山
7:20
8:05
8:45
9:30
登山口
3合目
5合目
8合目
10:45
10:15
 9:55
 9:35
11:30 登山口発    
15:30 川湯温泉(入浴) 
         (車中泊)
 梅沢俊氏の「北海道百名山」で登り残している数少ない山のうち、今年優先的にと計画していた3山、北戸蔦別岳、1839m峰(悪天候のためコイカクシュサツナイ岳で撤退)に次ぐ武利山への挑戦である。札幌の妻の実家を真夜中に抜け出し、高速道絡も使わずに旭川〜層雲峡〜石北峠を走り、留辺蕊の厚和へ向う。厚和から丸瀬布へ抜ける快適な道を登山口へ向かうまでは濃いガスで覆われていたが、峠を抜けたら晴ていて、ほっとひと安心。その舗装道路から、未舗装の林道に入り、登山口に到着。
 登山口で送迎をしてくれた若鹿
 登山口では、一頭の若鹿の出迎えを受ける。この若鹿、人慣れしているのか、逃げもせず、ずっと近くにいて、登山開始を見送り、下山も出迎えてくれる(1)。長岡ナンバーの車が一台駐車している。何気なく助手席に置いてあるメモを見たら、道のない日高の山も含めて北海道の百近くの山を記入してあり、それを順番に登り歩いている63歳の男性らしい。下山してくるのと出会うのを楽しみに登山準備をする。

 朝露対策の雨具を着用することも考え、短パンにTシャツ姿で出発。登山口には小さいながらも、立派な神社が祭られているが、それに参拝するのを忘れて出立したのがちょっと気になる。
3合目の様子
 1合目ずつ標識が設置されている登山道である。1合目までは、林道跡を進み、そこから登山道に入る。踏み慣らされたエゾマツやトドマツ林の快適な道を1合、15分のペースで進み、3合目に到着。ちょっとした岩場になっていて、イソツツジやコケモモなどが高山らしい雰囲気を醸し出している(2)。不安定な空模様なのは気に掛かるが、無風で晴れ間も見え、暑いくらいである。まだ、目指す頂上は見えない。

  さらに、手前のピークを目指し、だんだん細くなる尾根道を5合目手前まで進むと南がばらついてくる。雨具を上下着て、リュックカバーをかけてさらに進む。雲は高いし、左側の武華山もはっきり見えている(3)。 5合目のピークを過ぎると岩壁が迫ってくる。その右側のロープが固定されている急な道を攀じ登ってちょっとすると、上から男性が下りてくる。登山口にあった車の人である。どんな本格的なスタイルの人だろうと予想していたが、頭には何も付けず、色の褪めたジャージ上下に長靴スタイル、そしてナップサックの軽装で、拍子抜けする。町の中であったら、浮浪者と見間違われるような雰囲気である。
7合目から望む武華山 
 聞くと、日本1000山踏破を目指しているとのこと。ぴっくりして、いろいろ聞いてみたが、以前縦走した表大雪の9山を除いて、ほかの90山程を6月17日に北海道に入り、道南から毎日登り歩いているとのこと。簡単な山は一日で2つ登るようにしているとか。もしや、登山予定一覧表に書かれてあった沢以外に道もない南日高のピリカヌプリ、ソエマツ、トヨニ、中の岳なども登られたか聞いてみたら、道がはっきりしなかったり、とても一人では登れない難しい沢ルートだったりで、止めたり、途中で引き返したりとのことである。1839峰は一泊で往復したそうである。凄い脚力である。 話しているうちに雨が少し強くなって来て、彼がナップサックから取り出しのは、骨の2本ほど折れた傘である。これにも驚いたが、1000近い山を登っているこの男性にとってはこの程度の山はこの程度の装備なのであろうと妙に感心してしまう。
 
 その男性と別れて、だんだん雨足の強くなる中、さらに目の前に見える手前のピークを目指す。だんだん植生も高山らしくなり、6合目まで来ると、頂上稜線が見えてくる。大雪の山にしては荒々しい細い稜線である。日高の山に似た雰囲気である。その辺りから、雷が気になり始める。金属であるストックを途中のイソツツジの群生の中に置いて、本降りの雨の中、細い稜線の尾根道を進む。
7合目から見上げる頂上稜線
  7合目まで来ると、尾根も細くなり、ハイマツのトンネル状態のところや岩場もィソツツジの群生を縫って歩くようになる。好天なら高山の雰囲気を味わえる快適な稜線歩きなのだろう(4)が、雨足が段々強くなり、とにかく頂上までなんとか辿り着くことだけが目的になってしまい、ペースも速くなる。 ところが、8合目を過ぎた辺りで、さっきまで見えていた頂上稜線が雨雲に覆われて完全に見えなくなってしまう。おまけに雷が近くなり、雨足と風も強くなる。あと20分程で登頂できるのだが、雷が怖い。まったく高い樹木のない稜線を自分が一番高い状態で歩くのは危険であるし、周りがほとんど見えない状態の豪雨と強風の中、核心部となる岩場のナイフリッジ状の尾根を歩くのも心細い。やむなく撤退することにする。
 決めたら、後は速い。強い雨の中、後ろを振り向くこと無く、泥んこ状態の道を走るように下る。ふと、登山口にあった神社に参拝しなかったことを悔やんでみたりもする。3合目から下になると雨も上がり、晴れ間も覗くが、頂上の方は相変わらず雨雲で覆われたままである。登りに2時間10分かかった道を、約半分の1時間10分で登山口に到着する。

 登山口には、まだ長岡ナンバーの車があり、さっきの男性が車の中で食事をしている。「もう戻ってきたのですか?ずいぶん速かったですね。」と言われ、「雷が怖いので8合目で引き返してきましました。」と答え、まず、汗と雨でずぶ濡れの衣服を全身着替えてさっぱりする。こっちも食事の用意や食事をしながら、いろいろ質問し、彼の話を聞く。4年前まで新潟県の柏崎市役所に勤めていて、市役所の山岳会を作ったりしながら、若い頃から中部山岳地帯を舞台に山登りをして来たとのこと。退職してから、山と渓谷社出版の「日本1000山」踏破を目指していて、今年中になんとか達成する予定だが、とくに北海道の山は道のない山も多く選ばれており、1000山のうち30山くらいは残してしまいそうなのが残念であるとのこと。 今は、「日本百名山」ブームであるが、「日本1000山」に挑戦している人はこの方のほかに誰かいるのだろうか。山好きの人にはいろいろな人がいるものだと感心してしまう。自分も退職して、環境が許せば、1年間くらい本州の山を歩き続けたいという念が強くなる。 

 今日はこれから移動して、雌阿寒岳に登るそうである。自分は、近くの温泉でも入って、明日の天気予報を聞いてから、その後の予定を決めようと思い、「気を付けて、登り続けてください。」と月並みな言葉しか残せなかったが、先に登山口を後にする。その男性は、車の側で、年齢に似合わない爽やかさと逞しさを全身に漲らせ、「元気でなあ。」と言わんばかりに、日焼けして黒光りのする手を大きくゆったりと振っていた。その姿に、畏敬の念にも似た感動を覚え、胸が熱くなる。
 
 その後、国道に出、札幌にいる妻のところに電話をしたり、明日の天気予報を聞いたりした結果、明日は道東の方は天気が良さそうとのことである。ここまで来ているのだから、もう少し、東に走って「北海道百名山」で登り残している摩周岳(カムイヌブリ)に登ろうと決め、摩周湖を目指す。
 
 登山口になっている摩周湖第一展望台まで来て、観光案内所で近くの山のガイドブックを頂き、摩周湖とその対岸に爆裂火山壁を見せているカムイヌブリとそこまでのルートを目で辿る。その後、稲光が縦に走る豪雨の中、温泉に入り、夜を明かすために川湯温泉へ向かう。入浴料150円の町営の硫黄泉の銭湯に感激し、ビールを飲みながら汗を流す。若い旅行者が多く利用するらしく、感想ノートが置いてある。時間が十分あるので、それを読みながらのんびり過ごし、車で夜を明かすために公共駐車場へ落ち着く。


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