2日目

○ガスの中を1967峰を越えて、北戸蔦別岳へ
 風もなく快適なテン場にかかわらず、いつものことであるが熟睡できずジッと朝を待つ。一番夜が短い時期で、3時過ぎには小鳥の囀りが響き渡り、白々と明るくなってくる。4時過ぎには東の空が微かに焼けて、逆光で黒くなって見えるピパイロ岳と手前のピークが美しい(1)しかし、これから向かう稜線はすべてガスの中なのが、残念である。朝食を摂り、ガスが晴れることを祈ってテントを畳む。

 6時、スタート。ガスで覆われた1967峰への稜線の登りに掛かるが、まもなく登山道のほとんどは雪の下となる。ピッケルを手にして、昨日、先を進んで1967峰を越えたテン場に泊まっていると思われるグループのトレースを参考に登っていく(2)下山後のtakaさん話では、水場のコルを4時半に空身でスタートしたが、ピパイロの頂上から1967峰へ雪の上を登っていく私の姿が見えたとのことである。

 予定ととおり、30分でまったく展望も標識もない6年振りの1967峰頂上へ立つ。頂上には小さなケルンと赤いテープが巻かれた石が置かれているだけである。キバナシャクナゲとミヤマキンバイが迎えてくれる。GPSを見たら標高が珍しくピッタリの1967mであった(3)
それほど疲れもなく、展望もないので、次の北戸蔦別岳を目指してスタートする。次のピークを越えると左手のテン場に2張りのテントが張られている。「おはようございます」と声を掛けても返答がないところを見ると、幌尻岳までピストンするつもりで、すでに出たらしい。

 この辺りから稜線が南にカーブする地点辺りまでは、右側がすっぱりと切れ落ちた険悪な岩稜帯が続き、ときおりその上を越えたりもするが(4,5)幸い風がないのがうれしい。この間も花畑状態が続くところである。展望が利かないので楽しみはその花々だけである。昨日と同じ花ではあるが、一面ミネズオウのピンクの絨毯、ときおりピンク色の花もまじえた一面のキバナシャクナゲ、鮮やかな黄色のミヤマキンバイやウラシマツツジ、可愛いコメバツガザクラ、まだ蕾が綻び始めたばかりの白いイワウメなどを楽しみながら歩を進める。(花の写真は次ページ掲載)
 
およそ1900m台のハイマツ帯の中に続く快適な稜線の道を進む。展望が利いたら非常に楽しいコースなのだが残念である。やがて、1856ピークを越えて、北戸蔦岳とのコルへの下りに掛かる。その先に雪をびっしりと付けた北戸蔦岳の急な斜面が見える(6)また、左手のガスの下に戸蔦別川の源流部が見えるようになり、白い雪の斜面と新緑のコントラストが美しい。

 登山道はどうやらその雪の下らしく、雪庇の落ちた根元を辿るようである。前回苦労したコル部分の背の高い藪は雪のお陰で、ほとんど苦労なしである。コルを越えると北戸蔦別岳の肩である1901ピークの手前まで雪の上の歩きである。先を進んでいるグループの足跡を辿りながら今回の山行の最後の登りを詰める。

 1967峰から3時間を見込んでいたが、2時間20分で北戸蔦別岳の頂上に到着する(7)標識も三角点もない上に、予定より早かったのとガスの中なのでうっかりそこを通過してしまいそうになり、ヌカビラ岳への道を見て思わずストップする。時間的余裕もあるので展望が利いていれば、1881ピーク付近の花畑や七つ沼を覗くことのできる戸蔦別岳までピストンして見たいところであるが、それも面倒なので、しばらく休憩して長い下りに備える。

○斜面を覆う残雪のせいで惨憺たる苦労の下山。
 ヌカビラ岳を経由して二の沢への下山開始である。ヌカビラ岳までの登山道も半分ほどは雪で覆われた状態である。しかも周りは相変わらず見えない状態である。

 この稜線はエゾノツガザクラの多いところであるが、まだ時期的には蕾状態である。しかし、なぜか一ヶ所だけ狂い咲きのような株を見つけて、非常に得をした感じになる。

 3等三角点の設置されたヌカビラ岳頂上を越え、ハイマツ帯の中を下っていくと、四角い岩が積み重なったところを通過する。本来であれば、この後ろに幌尻岳と北カールの広大な景観が広がるだけに非常に残念である(8)急な道を下っていくと、大きな岩場の下を通過するが、この付近には葉全体が柔毛で覆われているカムイコザクラが咲いている。岩肌にもこの花の他にミヤマキンバイが咲いている。
 
 そこを抜けると一面雪に覆われた広い急斜面に飛び出す(9)登山道は完全に分からない状態である。地図を手がかりに、見当を付けて下り始めるが、ここからが苦労の始まりであった。

 まずは、滑落防止に付けたはずのアイゼンに雪が付いて団子状態になり、逆に2度ほど滑落し、ピッケルのお陰で助かる。仕方ないので、アイゼンを外してピッケルだけを頼りに一歩一歩慎重に下る。

 苦労の第2弾は、どうも地図の登山道と記憶に残っている登山道が違っているようなのである。記憶によると尾根の右手の二の沢上流部へ下りるはずであるが、地図では左手の沢に下りるようになっている(下山後確かめたら、やはり地図が間違っていた)。こちらの沢も結果的には二の沢に合流するのであるが、ガスで見えないこともあり、頼りは記憶よりも地図である。尾根を越えるために藪をこぎ出す。地図通りであれば、藪中の登山道を横切るはずなのだが、それらしい痕跡すら見当たらない。仕方ないのでびっしりと雪が詰まっていてところどころ口を開けている急な沢へ下りるが、その中に赤いテープもない。そのまま雪の上を下っていくが、その先で滝と崖の上へ出てしまう。再び大高巻きの藪漕ぎである。いっそうのことそのまま尾根を越えて本来の登山道の方へ抜けようと藪漕ぎを続けたが、根負けして、再びさきほどの滝の下の沢に下りて詰まった雪の上を下る。登山道の二の沢はこんなに急ではなかったはずと思いながら下っていくと、1000m付近で登山道のある二の沢へ合流してようやくホッとする(10)

 二の沢に下り立つと、先週に日高町の役場で整備したという登山道が続き、あちこちに赤いテープが付いている。余計な苦労をさせられた地図に腹立たしい思いをしたが、無事にここまで下山できただけでも良しとしなくてはならないであろう。沢の中で滑落でもして動けなくなったら、誰にも見つけられないところであった。

 あとは、雪解け水の増水で徒渉に苦労したが、登山道とテープに導かれて下っていく。徒渉は滑って転ぶよりマシなので、登山靴を濡らすことを厭わないことにした。やがて、ヌカビラ岳から3時間強で林道跡に登山道が続く二岐沢出合いに到着する。ただし、一ヶ所、台風の影響でそれが完全に崩壊して、斜めになった靴幅程度の岩棚のようなところを伝って高巻きするように笹刈り整備された部分もあった。ここはあとでロープを設置するそうである。

 取水ダムまで車を入れさせてもらったお陰で、1時間以上の林道歩きが省略できたことに感謝して、下山後、takaさんと落ち合うことになっている日高道の駅を目指す。彼に電話を入れてみたが、まだ繋がらなかった。4時前になってようやく連絡が取れ、お互いの無事を確認できたので、安心して沙流川温泉に入り、道の駅に落ち着いてビールで喉を潤す。5時過ぎに道の駅まで戻って来て、帰路に就く彼と別れる。

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