コイカクシュサツナイ岳(1721m)
[コイカクシュサツナイ沢〜夏尾根コース]
単独  97,7,31〜8,1
99,7,26〜27の「1839峰」へ

1839峰を目指すも、悪天候のためコイカクで途中撤退し、日高の厳しさを実感する。
                                   
7/31
1:00 自宅発(函館)
8:30 中札内
9:45 登山口
登山地点下山
10:00
12:00
12:35
15:20
8/1
 5:00
 6:00
 6:15
登山口
上二股(昼食)
 〃  発
1305m地点
  (テント泊)
1305m地点
夏尾根頭
頂 上
11:00
 9:00
 8:45
 7:30

 7:15
 6:30
 6:20
[6:35]総所要時間[4:40]
14:00 十勝川温泉入浴
20:30 洞爺湖畔(泊)

 昨夏は、コイカクシュサツナイ沢の増水で二つ目の函の上で撤退した念願の山・1839m峰に再挑戦し、 天候に恵まれたら、稜線をカムイエクウチカウシ山まで縦走する3泊4日の予定で出掛ける。 しかし、またもや悪天候に見舞われ、コイカクシュサツナイ岳の頂上を極めただけで戻らざるを得なかった。 一応、日高山脈主稜線の山の一つを制したことには なったが、予想を越えるコイカク夏尾根のきつさと、1839m峰の遠さを実感させられた山行であった。
 二つ目の函の中を行く
 当初は、一泊目を上二股でと決めていたが、夜中に 目が覚めたので、コイカク夏尾根頭まで上がることに計画を変更して出立。登山口までの 500kmの道程も夜中と早朝の走行で順 調に走る。昨年まで工事中であった札内川ダムがすで に完成していて、昨年の道は水没し、トンネルの連続する真新しい道を登山口まで走る。日高の主稜線の山に登るのに、登山口まで舗装道路というのはここだけ であろう。登山口の手前に新しい札内ヒュッテが完成していたので、そこで沢登スタイルに着替える。時間があるので、カムエクまで縦走した場合、七の沢出合いからこの登山口まで歩くことになる林道の距離を確かめるために七の沢出合いまで走ってみる。舗装道路はコイカク登山口からトンネルを一つ抜けたところで終わっていたが、距離は 6.8kmであった。昨夏は5台もあった登山口の車は今回は1台も無いのがちょっと残念であるが、天候もよく、登山口から沢の表面に主稜線とコイカクの北隣りの1643ピークが見えている。
表面にコイカクの頂上(左奥)と夏尾根頭を望む
 10時ちょうど、3泊4日の縦走装備の重いザックを背負い、コイカクシュサツナイ沢に取り付く。昨年、増水して途中まで腰までつかりながら怖々渡渉を繰り返した川と同じ川かと思うほど水量が少ないのにびっくりする。前回、腰までの深さのあった二つ目の函もその中を漕いで通過できるくらいである(1)。ちょうど1時間の地点の広い川原で、表面にコイカクの頂上と夏尾根頭が望まれ(2)、それに繋がる登山道となる物凄い急な夏尾根がくっきりと見えてくる。その地点でゆっくり休憩。かなり暑く、汗が吹き出すように流れる。セミの声が川の流れの音をかき消すような勢いである。

 そこから上流も、林や川原の踏み跡を辿るが、川原もだんだん狭くなり、岩も大きくなってくる。その大きな岩を伝い歩くようになり、ちょうど2時間、予定通りの12時、テント場のある上二股に到着。そこで、昼食をとり、靴を履き替えて30分休憩。コイカクまで上がって泊まるには水が必要である。どのくらい必要なのか良く分からず飲み水と合わせて 4.5gも背負うことになる。これが、この後のペースを乱す一つの原因となる。

  いよいよ、尾根道に取り付くべく、頭より高い笹藪に入って行く。ここがまた迷路のような状態で、ところどころに赤いテープがあるからいいものの、それでも間違いそうになりながら、掻き分け掻き分け10分程で通過し、はっきりとした尾根道に取り付く。 この尾根道、等高線の込み具合から覚悟はしていたが、予想を越える急傾斜の連続である。それに3泊4日の食料と 4.5gもの水、寝不足と運転疲れからか、10分ほど登ってはリュックを置いて 5分休むといった、これまでに味わったことのない苦しさに、自惚れていた体力をいやと言うほど思い知らされる。展望もそれほどなく、ただひたすら高度計の針との戦いである。あまりの苦しさと予想以上の時間の経過に、主稜線がガスで覆われ始めたことも手伝って、「今日は、1305mのテント場までにしよう。」と心変わりしてしまう。
1305mテント場と野営状況
 2時間の計画であった 1305mのテント場に、2時間45分も掛けて15時20分に到着。頭上は青空が覗いて暖かいが、真上に首が痛くなような高さで続く夏尾根の上部や隣の1643mピークは濃いガスで覆われている。今日はここにテントを張ることに決める。 そこは、直径10m ほどの草地の平坦地で、テントを張った跡が幾つか見られる。周りを囲んでいるダケカンバの木で風も防げそうな所である。少し休んで、一番条件の良い所にテントを張り(3)、早速ウィスキーの水割りで、今日の健闘を癒す。

 気がつくと展望の開ける北側の表面に、主稜線の1643mピークから続く支稜線のピークであるピラコトミ山(1588m)の鋭峰が、その奥に札内岳と十勝幌尻岳と思われる山も見えている。これまでの山でのテント泊は、周りに何張ものテントが張られている場所であったが、この厳しい日高山脈の山懐にたった一人で抱かれて夜を過ごすのは初めての経験である。快い孤独感と少しの不安感はあるものの、不思議と寂しさは感じない。ウィスキーの水割りをちびちびやりながら、ラジオを聞きながらのんびり過ごす。夕食は、荷物を少しでも軽くするために重いものからということで、パック入りのご飯とレトルトカレーのカレーライスと鰯の缶詰にする。天気予報はあまり良くないが、明日の好天を祈って、7時にはテントに入る。

 うつらうつらしながら野球放送を聞いていたが、いつものことであるがなかなか眠られない。11時ごろテントを出てみると、ガスも晴れて満天の星空である。新月でもあり、星の数と空の空間のどちらが多いだろうと思うほどである。直ぐ目の前に北斗七星がくっきりと、さらにこんなにはっきり天の川を見たのも何年振りであろう。そのあとも寝付けないで、寝返りを打ちながら時間の経過を待つ。ところが、1時ごろから風が強くなってくる。テントから出てみると、星空はなく、強い風に濃いガスが舞っているだけである。
 
 4時、微かに晴れ間が覗く東の空が明るくなってくるも目指す方向は濃いガスで覆われたままである。継続か、停滞か、撤退かいろいろ悩むが、明日以降の天気予報もあまり良くない。撤退することに決めるが、この場所から戻るのは悔しい。空身でコイカクシュサツナイの頂上だけでも踏んで来くることに決める。
北大山岳部のケルン
 行動食にたくさん持ってきた重いバナナを朝食に3本食べ、テントを畳む。ナップザックに飲料水、パン、雨具、無線、トイレットペーパーを詰めて出発。あと高度差400mほどの尾根道であるが、上がるにつれて傾斜も増し、だんだん狭くなり、そのピークしか歩くところが無いため、岩登り状態のところやハイマツやミヤマハンノキが生えているから怖くはないが、右側がスッパリ切れ落ちている急で狭く険しい道が続く。あの重いリュックを背負って果たして歩けたろうかと不安になるくらいである。
 
 それでも空身当然なので、昨日とは違って休むこと無くどんどん高度を稼ぐ。30分ほどして、突然下りてくる若い男性と出会う。「カムエクからペテガリまで縦走する積もりで夏尾根頭で夜を明かしたが、天候が悪いので止めて下りて来た。」とのことである。 ガスも濃くなり、雨具の上だけ身に着けて、さらに上を目指す。1時間弱で赤いテープの結ばれた木杭だけが立つ夏尾根頭に飛び出す感じで到着。生憎ガスのため視界は限られているが、さっきの男性が「コイカクの夏尾根頭は快適なテント場ですよ。」と言ったのが納得できる、一面お花畑が広がる快適な高原といった感じである。テント場も数箇所見られる。「今度来るときは、絶対ここにテントを張ろう。」と思う。
コイカクの頂上の様子
 展望が無いのなら、花だけが楽しみである。シラネニンジン、フタマタタンポポ、ミヤマリンドウ、ウメバチソウ、チシマリンドウ、ウサギギク、盛りを過ぎたエゾツツジなどが目立つ。ふとその中になんと真っ白なチシマギキョウを二つ発見し、びっくりする(目指せ200山の目次ページ)。 そんな花を楽しみながら、地図とコンパスで確かめたコイカクの頂上へ続く花畑とハイマツの中の踏み跡を辿る。ハイマツが濡れていて、靴の中にまで水が入って来るので、雨具の下も着けて進む。ほとんど標高差のない快適な道で、展望のないの残念である。やがて、ガスの中に大きな岩のようなものが浮かんでくる。近付くと北大山岳部の大きなケルン(4)である。その側を通り、さらに進むとちょっと小高くなりハイマツに覆われたところが頂上である。頂上は裸地状になっていて、三角点ではないが、似たような四角い石柱とやはり赤いテープが結ばれた木杭が立っているだけである。(5)

 あとは戻るだけである。途中良く見ると、花はもう終わっていたが、この日高山脈特産のヒダカゲンゲと思われるものも見られる。 夏尾根頭から今度は急な尾根道を下るが、途中、時々ガスが晴れ、左側のピラコトミ岳へ続くまさにナイフブリッジの稜線との間を刻む深い谷底までくっきりと見え、思わず足が竦む。さらに、これから下る狭い急な尾根や、はるか下にコイカクシュサツナイ沢も見えてくる。(6) 45分程でリュックをデポして置いた 1305m地点に到着。荷物を積め直して、残った水は飲料水だけ確保し、 2gほど捨てる。今度は 3gもあれば十分であろう。何事も経験である。
 ピラコトミ岳と夏尾根の細い稜線の道(下)
 荷物も軽くなったせいか、登りとはだいぶ違う、それでもかなりきつい下山を続ける。登りの半分以下の1時間15分で上二股へ到着。後ろを振り返ると、なんと悔しいことにコイカクや主稜線がはっきりと見えているではないか。「ここから戻っても、ヤオロマップ岳まで行ける」と考えたりもしたが、もう、気持ちは切れている。そのまま下山することに決め、靴を履き替え、15分程休んで、登山口を目指して、沢歩きを開始する。

 休み休みながらも登りとほとんど同じ2時間で登山口に到着。札内ヒュッテで着替えをする。トンネルの続く真新しい快適な道を走り、ダムの入り口を過ぎたところで、前を歩いている男性に追い付く。やはり、夏尾根頭の下で行き合った男性である。縦走すると言っていたので、「車はどうするのだろう。」と気になってはいたが、「日高山脈山岳センターまで行って、中札内までのタクシーを呼ぶ積もりであった。」とのこと。「帯広まで行ければよい。」と言うので乗せてあげる。

 いろいろ話を聞くと、東京の青年で、6年前から毎年、1週間の夏休みは北海道の山に登りに来るそうで、全部縦走登山で、有名な山はほとんど登っているようである。 昨年から日高山脈縦走登山を試み、昨年は、幌尻岳からカムエクまで歩き、今年はカムエクからペテガリまで目指したが、途中で断念。来年はコイカクからペテガリまで行くとのこと。南下するにしたがって、ハイマツが濃くなって来ることを実感したとこと。
時間的余裕もあるので、十勝川温泉まで走り、「かんぽの宿」で汗を流し、一緒に食事をとる。食事をとっていると、雨が降って来る。いつのまにか十勝平野一帯は雨雲で覆われ、もちろん日高の山は全然見えない。お互い「下りてきて正解だったですね。」と胸をなで下ろす。その後、帯広駅まで送り、「来年も会えるかもしれないね。」と言って別れる。
 日勝峠を越えても、今にも雨が降りそうな天気で、そのまま帰宅することにしたが、一気にはきついので、どこかで1泊してと思うが、適当なところが見つからなくて、洞爺湖畔まで走る。ちょうど、トイレ付きの駐車場の前の焼肉レストランがまだ開いている。車の中で寝ることにし、そのレストランへ。迷わず生ビールとジンギスカン2人前を注文。とにかくこの生ビールが飲みたかった。もう1杯飲み、大満足でそこを出ると名物の花火をやっている。車の前で、沢山の人と一緒に楽しむ。それも終り、車の中へ、それから朝の6時までぐっすり。次の朝、コーヒーとポタージュを飲み、帰路に就く。


「目指せ!二百山」目次へ  「1839峰」  HOM

inserted by FC2 system