○高根ヶ原を越えて忠別岳を目指す
 まだうれしい7:30である。疲れもそれほどない。しかし、戻りの制限時間11時までは3時間30分あるが、果たしてその時間までに辿り着けるであろうか?との不安感は消えないまま、チングルマの咲き乱れる斜面を高根ヶ原目指してスピードアップする(1)
 
 左手に緑岳を見ながら1881ピークを越えると、斜度も緩くなり広く平坦な高根ヶ原となる。途中で休んでいるトムラウシまで縦走するという大学生のパーティに出会う。気持ちのよい挨拶を交わしてくれる。足下には、クモイリンドウの花もあちこち咲いているが、避難小屋周辺のような大株はない。せいぜい4輪ほどのものばかりである。そのほかに、イワギキョウ(2)や、ミヤマリンドウと非常によく似て、初めその違いがよく分からなかったが、よく見ると色が濃く、花の中央の副片が内部を塞ぐような形になっているリシリンドウもあちこちに咲いている(3)

 やがて、今は熊の定住のために廃道化している三笠新道の分岐を通過すると、高原沼とその西側のまだ豊富な残雪を抱いた急崖が連なり、その先に忠別岳が見え、だいぶ近づいた感じがする(4)。それらの展望を楽しみながら、遅い朝食を摂る。歩き始めてまもなく反対側から縦走してくる単独の外国人男性に出会う。流暢な日本語で挨拶されて面食らう。

 さらに高根ヶ原の左端を高原沼を眺めながら、緩やかな下りを急ぐと、緩やかな登りとなる。そのピークが標識もなくどこがその頂上か分からない平ヶ岳のはずである。そこを越えて緩やかに下ると木道の設置された湿原へ出る。一面のワタスゲが美しい。

 次の1833ピークへ登っている最中に、忠別岳避難小屋に泊まって戻ってきたという単独の男性に出会う。「忠別岳まで行きたいのですが、あとどのくらいですかね?」と聞くと、「そのピークを越えると忠別沼が見えます。そこからですと私は40分で着きました。」とのことである。まだ9:10である。「ひょっとしたら、10時には着くのではないだろうか?」と期待が膨らむ。

 そのピークを越えると、眼下に忠別沼と忠別岳が見える。下りの斜面は見渡す限り一面チングルマで覆われている(5)。降りていくと、今度は一面エゾカンゾウが咲き乱れる静かな忠別沼湖畔で、目指す忠別岳までの緩やかなハイマツ帯の中に登山道が見えている(6)

 「あと、30分もあると頂上へ着けるだろう」と思うと、一気に緊張感が解けて疲れがどっと出てくる。休み休み最後の登りを詰めていく。

 5時間に5分のお釣りの来る9時55分、ようやく11年振りの頂上に立つ。頑張ったご褒美であろうか、それまで雲で覆われていたトムラウシの頂上がわずか数分だけその姿を見せてくれた。誰が、何のために担いできたのか、何も刻まれていない真っ白な花崗岩の石柱が置かれていた(7)

 360度の展望を楽しみながら30分ほど休憩する。東側に昨年歩いた沼ノ原や沼ノ原山や、石狩連峰の山々、昨日登った武華岳〜武利岳も見える。それにしても頂上西側から覗くのも怖いほど垂直に切れ落ちる化雲沢川の源頭地形はすざましい迫力である。少し南側へ移動してそこから頂上の様子を眺める(8)

 いよいよ下山である。反対から眺めたときにもそう思ったが、およそ中間地点となる白雲岳避難小屋までも非常に遠く感じる。しかし、地形的にはそれほどきついアップダウンもないので、同じ時間で戻れるはずである。忠別沼を越えた1833ピークからこれから戻る高根ヶ原と旭岳〜裏旭岳〜白雲岳〜小泉岳〜緑岳がくっきりと見えている(9)

 あとは、ひたすら白雲岳避難小屋の冷たい湧水を楽しみに惰性で歩き続ける。帰りの高根ヶ原歩きは上空に雲が広がって来たせいもあり、それほど汗も掻かずに歩くことができたが、さすが白雲岳避難小屋までの最後の登りはきつかった。それでも、ちょうど、行きと同じ2時間30分で避難小屋に着くことができた。

 楽しみにしていた冷たい湧水を柄杓でゴクゴク飲み、空いたペットボトルにも詰めて、遅い昼食をと、持参したはずの菓子パン2個がいくら探してもない。どうやら車の中に忘れてきたらしい。ところが、軽量化のために置いたはずのソーセージが2本入っている。それを食べて水を飲んだら結構腹がきつくなった。

 じっくり休んだらどっと疲れが出てきてしまい、白雲岳分岐までの登りもきつかったが、道端のチシマノキンバイソウ(10)、エゾノホソバトリカブト(11)、アオノツガザクラ(12)などを初めとするいろいろな花々が癒してくれる

 赤岳からの下りも、元気なうちの登りでは気にならなかったが、結構急な下りで、疲れた足にはきつい。だんだんへばり気味でペースが落ちてくるが、下山する人たちを次々と追いこすということは、それでもほかの人よりかなり速いらしい。

 第一花園から銀泉台の駐車場が見えてホッとする。帰りは行きより10分遅れの5時間05分で、時間の割りにはそれほどの疲れもなく、スタートしてから10時間30分でゴールインする。

 再び層雲峡の黒岳の湯で汗を流し、まずは、寄らなければならない家のある旭川へ向かう。


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