このペンケ岳は、八雲町の太平洋側と日本海側を結ぶ雲石峠から見える道南の奇峰として名高い
岩子岳と稜線続きの北東に聳える800m峰である。
その反対側の上八雲地区から眺めると、遊楽部岳の左手に穏やかに聳える山である(1)。山名は、北海道内あちこちに見られるアイヌ語のペンケ(川上の、上の・・の意)が語源だが、この山を源流とするペンケルペシュペ川に因るものであろう。
これまで得た情報は、南側から岩子岳とセットで登られたものだけである。岩子岳に登ったときには初めから時間的余裕がなかったこと。さらには、岩子岳との間のアップダウンの多い細い稜線や岩峰を巻くための急斜面のトラバースなどリスクが大きいこともあり、この山に登るときには、易しそうな上八雲からと決めていたので、無理しなかった。
2日前の偵察で、北斜面ゆえに結構下から雪が付いていることが分かり、「この山に登るときには一緒に」と約束をしていた岩子岳や1週間前の燈明岳同行のSaさんを誘っての挑戦となった。
今回のルートは、
上八雲地区の北里大学八雲牧場の奥に続く林道を利用し、手前の端正な形をした714ピークの緩やかな北尾根を登るものである(2)。急な痩せ尾根もないことや林道歩きが長いことから、かんじき予備の山スキーでトライした。
スタート地点は、北里大学八雲牧場の施設が集まっているところから500mほど奥の八熊川の渡渉地点である(3)。その先の牧場内の林道は雪がないこともあり、リュックにスキーを括り付けて歩いていく。しかし、道なりに進んでいくと、牧場内でさらに先に続いているはずの林道がとぎれてしまう。GPSで確認したら、分岐をどこかで見落としたらしい。牧場の最奥まで進んで、人工林の中を横切って林道へ出る。
林道には雪がびっしりと付いているので、そこでスキーを履く。
灌木や笹が出ている林道跡を忠実に進んで行くと、714ピークが近づいてくる(4)。さらに右側の方へ進み、標高点305の先の広くなる北尾根の下で林道は終わっている。
広くて緩やかな尾根の雑木林やトドマツの人工林を抜けると、400m付近から斜度が増すようになる。
その付近で、これまで目にしたことのないような直径1.5m以上はあろうかと思われるダケカンバ?の巨木を目にする(5)。また、450m付近をどこから続いているのか不明な林道が横切っていた。
714ピークは、ピークをかわしてその先のコル目がけて西斜面を巻くように600m付近からトラバース気味に進む。急な斜面を避けてトラバース終了したら、コルより少し上に出た。
そこから先からは、コルを挟んで前峰までの尾根が急で狭い上、雪付きが悪く、笹藪が顔を覗かせているところもあるので(6)、スキーをそこにデポすることにする。帰りも、そこからならスキーでの登り返しもないので、シールを外して直ぐ滑りだすことができる。
かんじきを忘れたSaさんの先に立ち、ザクザク雪にステップを刻んで、端正な714ピークやその後ろの牧場が広がる上八雲地区を背に前峰への登りを続ける(7)。やがて、強風の頂上稜線に出ると、
南側斜面に笹藪を覗かせた頂上と、その左手にひと月前に二人で登った岩子岳が目に飛び込んでくる(8)。
スタートして、3時間25分、緊張場面もなく、ほとんど疲れも感じることのない楽勝モードでの頂上到着である。上空は晴れているのに、風がもの凄く強く、立っているのがやっとの状態である。
一番先に、岩子岳との間の818ピークから続く尾根を見下ろす。すっかり雪が落ちてしまい、両側がすっぱりと切れ落ちている細い岩尾根状の様子に、「やっぱり、岩子のときは無理しないで良かったですね。今日のコースが正解でしたね〜。」と二人で胸をなで下ろす。
南側には、日本海側から吹き上げてくる強風に運ばれた黒い雲に上空を覆われた雄鉾岳(9)、その右手前には818ピークの向こうにポコンと頭を出す岩子岳(10)、西側には、ずっと頂上を雲に覆われた遊楽部岳と全容を見せている太櫓岳(11)、北側には狩場山塊から長万部岳までの白い稜線・・・・・。それらを急いでカメラに収め、風を避けるために北側の急斜面を少し下って昼食に備える。しかし、Saさんは強風をものともせずにそれらの眺望をビデオカメラに収め続けていた。
40分ほど休憩して、下山を開始する。スキーデポ地点でスキーを着けるが、
ザクザクの重い雪に、不安定なプラブーツでの滑降である。指導員の資格を持つ二人ではあるが、安全第一に徹し、無理に滑りを楽しむことはしなかった(12)。
林道に出てからは、二人とも雪面に茎だけを出している笹地雷に足首を捕まれて何度も前のめりに転倒したが、怪我もなく、登りで見失った林道を雪の無くなる地点まで滑り降りた。スキーをリュックに括り付けて15分ほどの歩きで、スタート地点へ戻ることができた。しかし、最後の渡渉で足を滑らせて転びそうになったので、途中から川をじゃぶじゃぶ漕いで渡ったが、靴の中までは濡れなかった。
来シーズン延ばしの予定だったが、これが今シーズン最後の道南の雪山登山という区切りの気持ちで念願の一山をやっつけることができたことがうれしい。山以外はすっかり春の様相の上八雲を後にして、八雲町内の国道5号線沿いの遊楽亭の温泉で汗を流して帰路に就いた。