双珠別岳(林業界の通称)(1347m)  <国境稜線南側ルート>  単独  ツボ足 05,05,04

送電線下の道を利用し尾根に上がり、国境稜線上を辿り、最後は細い藪と岩の尾根を登るも、頂上直下で撤退

5:30 日高道の駅発
6:10 清瀬橋手前駐車スペース 
登山
地点
下山
6:20
6:30
7:10
8:00
8:40
9:50
10:40
清瀬橋手前(450m)
送電線下(480m)
送電線尾根上(770m)
国境稜線(1042m北)
最低コル(910m)
最初の岩場(1000m)
頂上直下(1280m)
13:40
13:30
13:05
12:30
12:50
11:05
10:45
[4:20]所要時間[2:55]

14:30 沙流川温泉(入浴)
15:30 日高道の駅(車中泊)

 日勝峠から国道を日高側に下りてくると6合目付近で正面にどっしりと聳え(1)沙流岳やペンケヌーシ岳などから見ても独立峰のように鋭く聳える存在感のある山である。三角点があるのに無名峰なのはもったいない山だとずっと気になっていたが、最近になって、この山にも双珠別岳という通称があることが分かった。しかし、多くの登山者に登られていて、すっかり山名が定着している双珠別岳(前日登頂)は同じ稜線のもっと東寄りの日勝峠に近い狩振岳の南東隣の1389mの丸いピークである。同じ双珠別川の源流にあることから名付けられたのであろうが、双珠別岳が2つ存在することになる。

 この山に沢から登っているあまいものこさんによると三角点名称は「双珠別」で、昭和6年の「北海道の山岳」という本には、ちゃんと「双珠別岳」と書かれていたそうである。一般的にこの山は「林業界の双珠別岳」、日勝峠に近い1389mの山は「登山界の双珠別岳」と呼ばれているとのことである。

 今回の山行でこの2つの双珠別岳を登る計画をたて、前日に、もう一つの双珠別岳から眺めたその姿に、登行意欲は否が応でも高まってきた(2)しかし、こちらの双珠別岳は上述のあまいものこさんの沢からの記録だけで、残雪期や冬期の記録はまったくみつけることができなかった。日勝峠の国道から直接頂上に繋がる尾根は末端がみんな急で取り付きが不可能である。地形図とにらめっこした結果、日勝峠の1合目を過ぎた清瀬橋の先に、送電線が急な尾根の斜面を越えているところがある。その尾根は国境稜線上の1042ピークに繋がっているので(3)それを利用して国境稜線上を頂上まで目指すルートを考えた。現地に行ってみたら送電線の下はまったく雪がないのと、アップダウンの長い稜線、最後の細い尾根の急登などから山スキーは無理なので、ツボ足で挑戦することにした。登り5時間、下り4時間の計画である。

 清瀬橋の手前に広い駐車場があるので、そこに車を置いて、そこから沢沿いに入ると、崩壊してはいるが古い林道跡が続いている。10分も歩かない内に送電線の下に到着する。左岸に「日勝幹線→」と書かれた標識が建ち、そこからきれいに刈り払われた道が続いている。

 一気に300m近くの高度を稼ぐので、かなりの急斜面にジグが切られた快適な道となっている。鹿にとっても快適な道のようで、糞が敷き詰められるように落ちているし、古い熊の糞まで落ちている。40分ほどで、尾根のピークまで登り切る。振り返ると左下に車が盛んに行き来する国道が見える(4)

 ピークからは深い谷の向こうに鋭く尖った双珠別岳の頂上が見え(5)これから歩く尾根と頂上までの長い国境稜線を目で追う。その距離の長さに唖然とする。一息入れて雪で覆われた尾根の上を進み、とりあえずは国境稜線上の1042ピークを目指す。ところどころに林業関係者のものと思われる赤いテープが付いているが、それもすぐなくなり、そこから頂上までは一切人の入った痕跡は眼にすることはなかった。

 さらに50分で、1042ピークを右から巻くようにトラバースして国境稜線に乗る。反対側に夕張岳が意外に近く見える。ここから頂上への急な尾根に取り付くまでの稜線は概ね900〜1000mのアップダウンが続く。稜線上は伐採の手がまったく入っていないらしく、太いエゾマツやトドマツの林である。前半は比較的広い稜線で歩きやすいが、積雪が思ったより少なく、踏み抜きが多く、結構なアルバイトが強いられる(6)。また、まったく雪がなく笹が露出しているところもある。

 スタートして2時間20分で、およそ中間地点と目論んでいた最低コル(900m)へ到着する。頂上がぐんと近くなってそこまでの急峻さや尾根の細さが気になり、その迫力に押しつぶされるような感じである。

 ここから先の稜線は段々細くなり、雪付きが悪くなり、藪漕ぎを強いられるところが多くなってくる(7)

 1000mを越えるとますます痩せ尾根となり、ついに恐れていた行く手を遮るような急な岩場が現れる(8)しかし、灌木が覆っていて、それに掴まりながらなんとか突破できそうなので、邪魔なストックをそこにデポして岩登りモードに入る。

 恐る恐るそれを越えてホッとして登っていくと再び岩場にぶつかるが、ここもなんとか突破したが、さらに3つ目の岩場が現れる。無中になってよじ登っている内にすでに標高1150mをこえていた。地形図を見ると、ここを越せば頂上直下までは比較的斜度が緩むはずである。

 しかし、尾根の細さは変わらず、1200mの手前ピークを越えると、細い雪の稜線の向こうに荒々しい頂上が姿を現す(9)この辺りから風が強くなり、昨年のピリカヌプリへの綱渡りのような細い雪の稜線を這うようにして通過して頂上へ近づいていく。ストックを置いてきたことを悔やむが、岩場の通過にはどうしても邪魔であった。

 やがて、頂上直下のコル手前の1280m地点までなんとか到着したが、頂上までの標高差70mほどの急斜面が怖い。ここまでのルートで岩場以外でもっとも急な斜面である。雪面も険悪そうな感じであちこち口を開けている。おまけに強風がそのコルを吹き抜けている。せめて、ストックかピッケルがあればなんとかなりそうだが、掴まる物のない斜面はバランスを崩すと一巻の終わりである。「この山に、この時期に登った人はそうはいないであろう。単独でここまで来れただけでも満足である。無理しなくても・・・」という想いが頭をもたげ、あっさり撤退を決断する。

 そう決めたら撤退は速い。恐る恐る通過して来た細い部分を戻ると、ようやく余裕が出てきて、周りの展望を楽しむことができる。国道を挟んで展開する北日高の沙流岳〜ペンケヌーシ岳〜チロロ岳〜幌尻岳までの山並みはこの角度から眺めたことがないだけに非常に新鮮な眺めである(10)。さらに東側に目を転じれば、昨日登ったもう一つの双珠別岳と狩振岳が見える(11)。さらに南には、ここまで辿ってきた稜線とそこから東に延びる尾根の先に送電線下の刈り払われたところが見える(12)よくあそこから歩いてきたものだと思うと、頂上を踏めなかったことなど些細なことに思えてしまう。自己満足しながら、昼食タイムとする。

 下山を開始するが、まだ3ヶ所の岩場があるので、気を緩めるわけには行かない。しかし、下りは、登りの足跡を辿るのと急な分だけどんどん歩ける。岩場も周りの木に助けられて、思ったよりあっさりと下ることがでた。ここを越すとあとは命にかかわる心配がないと思うと、疲れた足も軽くなってくる。

 登りで頂上まで2時間かかった最低コルまで1時間で下りて頂上を振り返るが、頂上直下の急斜面は諦めて正解だったと改めて胸をなで下ろす。このコルからは再び登りモードが続くが、足跡を辿るので踏み抜きも少なく、疲れも少ないのが幸いである。 


 途中でエゾマツの根元にクマゲラかアカゲラが彫ったばかりと思われる顔のような穴を見つけそのユーモラスな表情に思わず微笑んでしまう(13)



 1042ピークの手前まで来ると、あとは下りだけである。広い尾根をどんどん下り、雪のない送電線のところまで来ると、もう終点のようなものである。最後にもう一度頂上や辿った稜線を振り返って、無事ここまで戻れたことを感謝しながら夏道を下る。

 今年の雪山でもっともハードな山であったが、頂上直下で撤退したことの悔しさはまったくなく、ずっと気になっていた山に登ることができた満足感に酔いながら、沙流川温泉をめざす。温泉から上がって、まだ15:30であったが、道の駅のコンビニで弁当とビールを買って、車中で一人で祝杯を上がる。その後、いつの間にか眠ってしまった。



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