境山へ向かう

 30分ほど休んでいたが、下を見ても誰も現れないので下山を開始する。登りで苦労したハイマツは下りであれば足で踏んづけて下れるので、5分とかからないで、スキーデポ地点へ到着する。頂上まで雪が繋がっていれば、頂上から北斜面を直接下ってコルまで下りる予定だったが、スキーデポ地点からは左手森林限界附近まで下りているハイマツ帯が邪魔で、どうしても1300附近まで下って、トラバースするしか方法はないおいしい大きな斜面に気持ちのよいターンを刻み、あっという間に林の中へ入ってしまう。

 高度計を見ながら1250m附近をトラバースして、コルに出ると、そこは湿原であった。雪解けが進んで沼や高層湿原特有の矮性なアカエゾマツが点在している(1)。それを眺めていると、「オーイ!」と声が掛かる。びっくりしてその方を振り向くと湿原の北側に6人のパーティがいる。返事をして近づいていくと、上ホロ避難小屋に一泊してツボ足で境山を越えて来たそうである。さらに上に別のパーティの三人がスキーでその地点から北斜面を登っているとのことである。「林道が開いていて、車デポ地点から2時間40分で下ホロに登って下りてきたところ」だと話したら、びっくりされる。

 彼らの下りてきたルートは、これからこちらが登るルートと同じ斜面である。彼らやその前のパーティのトレースを辿って高度を上げていく。森林限界を抜けた辺りで振り返ると、左側にコルの湿原を抱いた下ホロが頂上までピンと尖った見事なまでの端正な円錐形形を呈している。地図の等高線の状況や実際見た感じでも、この角度からの形が一番整っているようである。斜面をよく見ると、上の方に3人が、下の方に6人が登っていくのが見える。(2)

 その雪付き斜面の両側の雪のない斜面は、岩とハイマツと高山植物の大雪の山肌特有の景観を呈している。ナキウサギの声もあちこちで聞こえる。稜線まで標高差50mほどで雪が消えている。そこに、スキーをデポする。その上は小さなハイマツと岩と高山植物の斜面である。高山植物を踏まないように、なるべく岩の上を歩くように心がけながら15分くらい登ると痩せた稜線に乗る。

 再び十勝連峰との対面である。その先はものすごい痩せ尾根で両側に雪が付いていたら怖くてとても歩けるような感じではないが、幸い、西側が雪が解けて岩やハイマツが顔を出しているので、それらに掴まりながら慎重に歩いていく。これまでは滑り専用の兼用靴であったが、それを登山靴として歩くのは初めての経験である。バックルを緩めて歩きやすくし直す。そんな細い稜線上のわずかな雪の上にスキーのトレースが付いているから驚きである。

 やや丸みを帯びた1800ピークの向こうに、岩とハイマツだけの細い稜線と尖った岩峰ピークが見える。それを境山の頂上と勘違いして近づいていく(3)。その岩峰ピークは狭くて怖くて留まることができないので、怖々越えて、その先に下りて、頂上到着と喜んだ。その先を見ても、上ホロ方面から行き来するトレースもそこらは稜線を外して右側の斜面へ下りて行っている。でも高度計を見て10mほど低いのが気になり、GPSを取り出してみたら、なんとそこは頂上ではなく、頂上の1kmほど手前の1827ピークなのである。

 境山頂上への稜線はそこから標高50mくらい下ってから再び登り返さなくてならないのである。おまけに、そこまでも怖々通過してきた稜線よりももっと細く、両側の斜度もきつくなっている。確かに地図を見ても両側がカール壁のようになっている。岩やハイマツが出ているところはなんとか掴まりながらでも行けそうだが、コルの先は真っ白な雪だけのナイフリッジである(4)。もちろんそこには足跡もスキートレースもついていないし、どう見ても高所恐怖症の自分には通過できるところではないと思ったら、ここまで来れたという満足感が優先して、あっさり諦め、戻ることにする。帰宅後、地図を見て考えてみたら、その稜線を通らなくても上ホロからのトレースを辿り、右側の谷地形を越えて、北東の尾根から境山頂上をねらえばよかったと、時間的余裕があっただけに後悔することになる。

  下ホロ頂上より近くなり遮るものの無くなった十勝連峰は十勝岳頂上に雲が絡んでいるほか(5)、東側の山々にも雲が少し絡んだ状態で見え、それより東側のトムラウシや東大雪の山々は完全に見えなくなっている(6)。一度戻ると決めたら後は迷うことはないので、どんどん下る。スキーのデポ地点まで戻って下を見下ろすと、3人パーティのグループがすでにコルから登り返してきて、6人パーティが下の方に見え、そのほかに単独の人も登ってきている。

 気持ちよくターンを刻みながら、出会うその人たちと挨拶をしたり、こちらの林道情報を教えたりしたが、これから全員が上ホロまで戻るわけで、一様に私の楽勝ルートをうらやましがっていたし、私と同じルートからたくさんの人が登ってきていることを教えてくれる。。コルの上から左側へ進路を変え、湿原を通らないで、下ホロへの登りで辿ったルートの方へGPSを見ながら林の中を下りていく。もうすぐ林道へ出ようとするときに先を下っている3人グループの姿が目に入ってくる。その服装を見るとHYMLの管理人のKoさん、Kuさん、Siさんの3人である。

 彼らの他に、まだHYMLの4名が同じルートを登ってきたとのことである。彼らは私の車があるのを見つけ、途中で逢えると思ったが、逢えなかったので、きっと下ホロをさっさと下りて別の山へでも行ったのだろうと話していたそうである。やはり、このルートはHYMLのメンバーしか入っていないところを見ると、意外と知られていないルートなのかとうれしくなる。下りてきて、彼らと一緒に下ホロをバックに写真を撮る(7)。下から境山を見ると、頂上と間違った1827ピークは見えているが、頂上はその陰で見えていない。

 トムラウシ温泉で汗を流すべく、林道を戻るが、途中からオプタテシケへの最短ルートであるトノカリ林道の偵察に入ってみると、コンタ750m辺りまで車で入ることができ、10台以上の車が止まっていた。その林道の正面にに見える迫力あるオプタテシケ姿が印象深かった。いつかは、このルートからもこの残雪期に直接オプタテシケに登ってみたいと思いながら、下の林道に戻り、トムラウシ温泉を目指す。

 トムラウシ温泉の大雪荘でゆっくり休み(8)、夕方に彼らと別れ、次の日の早朝登山の日勝峠からの「熊見山〜1328ピーク」に備えて、清水町へ向かう。



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