狭薄山(さうすやま)(1296m) 豊滝コース〜縦走路経由  単独(ツボ足) 03,5.11
いつも札幌の行き来に中山峠から眺めていた気になる念願の三角形の山へ

4:00 札幌発
5:00 道路情報館
    (盤の沢林道へ)
登山地点下山
5:30
7:00
8:20
9:20
林道終点手前
縦走路分岐
ひょうたん沼
頂    上
12:50
11:40
10:40
 9:50
[3:50]所要時間[3:00]

13:50 黄金湯温泉・まつの湯(入浴)
18:30 函館着

 この山は、いつも札幌へ行き来するときに中山峠から見ると札幌岳と空沼岳の間に聳えるピラミダルないつも気になる山である(1)。この両山より標高が高いのに両山の縦走路から外れているために登山道がなく、夏の沢からか積雪期の縦走路からのアプローチが一般的のようである。4年前の3月にあるグループの誘いに乗り、万計山荘に一泊して向かったが、稜線に出たところでホワイトアウトになってしまい、諦めて空沼岳に登頂しただけで戻って以来の挑戦となった。

 今回は前日土曜日が札幌出張だったのを機に、1週間前に登ったHYMLのメンバーからの雪の状態の情報をもとに、単独で、ツボ足でねらうことにした。今回は、まだ歩いたことのない豊滝コースからにするか、一般的な空沼岳の登山道からにするか悩んだが、前日札幌に出る途中に豊滝コースの林道状況を偵察に入ったら、ゲートが開いていたのと林道終点近くまで車で入れたことから、豊滝コースから縦走路に出て、ひょうたん沼付近の尾根から頂上をねらうことにする。ここからひょうたん沼までのルートをGPSに入れて来てはいないが、稜線までは顕著な尾根だし、縦走路は一度歩いているので大丈夫との判断である。
 
 札幌のホテルを4時に出て、豊滝にある道路情報館駐車場で準備し、そこから盤の沢川沿いの道路に入る。舗装道路が大きく右に曲がる橋の手前の分岐から林道に入る。そこから少し進むとゲートがあるが昨日から開きっ放しになっている。林道は終点少し手前のコンタ620m附近まで入ることができた。足は春山の強い見方であるスパイク長靴であるがストックを忘れたことを少し悔やむ。

 天気予報は快晴のはずだが上空は全体がガスで覆われた感じで青空は見えない。気温も5℃と非常に寒く、雪が堅いままである。時間が経つに連れて晴れるだろうと期待して出発する。5分ほど歩くと林道終点である。そこから小さな沢を渉るその先に登山道が見える。しかし、どこにも登山口の標識や登山口にあるような注意書きも見当たらない。案外、稜線までの急登ゆえに敬遠されている登山道なのかもしれない。沢の左岸に沿って登山道が続いている。今年初めての登山道歩きなのでとても新鮮な感じがする。途中で雪で登山道を見失うが、小さな沢の対岸の崖にロープがぶら下がっているのでそこを登る(2)。

 コンタ720m附近で尾根に取り付く。上空に太陽が見えるが、一面霞んだ空なので真っ赤なまん丸い形だけの太陽であるのが珍しい。一端傾斜が緩んだ辺りから雪が出てきて登山道が分からなくなる。右手には札幌岳頂上付近からの急な沢が見える。左手にも沢が入っている急な尾根の直登である。とにかく、その尾根を登っていくと稜線に出ることは間違いないので、ときどき雪が剥げて藪になっているところもあるが、笹や木の枝や倒木に掴まりながら強引に登っていく。雪だけの斜面であれば余りにも急なので登るのに大変な斜度である。それでも、上の方へ行くと古いスキーのトレースや足跡が微かに残っているところを見るとこのコースから登る人がいるようである。

 一番急なところを難儀して登り切ると、やや傾斜が緩み頭上にハイマツと雪庇が被さるように見える縦走路のある稜線が見える。森林限界を抜けているので、掴まる物のない急な雪の斜面である。気温が異常に低く長靴ではステップが刻めなく、ストックを忘れたことを後悔する。それでも、なんとか底のスパイクを利かせて、ときには四つん這いで稜線の雪庇の切れ間から縦走路に到着する。稜線には多くのツボ足のトレースがついている。

 相変わらず上空は一面霞んだ感じで、遠くの眺望は全く見える状態ではない。札幌の町も近郊の山並みも見えず、近くの山だけがぼやけて見えるだけである。それでも、めざす狭薄山はやはり形のいい姿を呈している。計画は縦走路をひょうたん沼まで行って、そこから狭薄山に続く稜線を辿る予定である。ただ、地図や実際の目で見るとひょうたん沼まで行かなくても最低コルの1036から蝦蟇沢川の源頭部を巻くようにして、1158ピークへ取り付くのが近道のようであるが(帰宅後、「北海道の山と谷」を読むと、同じことが記述されていた)、4年前にホワイトアウトで稜線から撤退したときの地形も確かめたいので、予定通りのルートを辿ることにする。この縦走路は95年5月下旬に札幌岳から空沼岳まで歩いているが、そのときとは比べ物にならないくらい積雪量が多い。

 縦走路はほとんど雪で覆われていて分からないので、古い足跡を参考に歩いていく。初めは雪庇の根元を歩くが一つ目のピークである1147ピーク手前で雪が切れてハイマツ漕ぎをしなくてはならない部分もあるが、登山道を探すのも億劫なのでそのまま突入する。1147ピークをかわす急な東斜面をトラバースする地点は、滑落した跡もあったりで、止まらなければ結構深い谷底まで落ちそうな雰囲気で緊張するが、しっかりステップが刻まれている古い足跡を山側に手をつきながら恐る恐る通過する。その後の下りは結構な急斜面でグリセードで下って行く。さらに1157ピークから東側へ延びる稜線に乗ると南側の展望が広がる。縦走路から狭薄山までの辿る稜線も見える(3)。1157ピークをかわして再び急斜面を下り、このルートの最低コル1036地点に立つ。後ろを振り返ると、札幌岳が迫力ある姿で望め、帰りの登り返しが気になるほどの標高差である(4)。

 そこからひょうたん沼までは割と平坦な地形で方向を見落としがちな感じであるが古い足跡を参考に進む。やがて、左手に溶けかかったひょうたん沼が現れる(5)。そこから、縦走路から離れ狭薄山に向かうことになるので一息入れることにし、10分ほど休憩する。

 10分ほど休憩して、これまでの経験からして頂上までは1時間ほどであろうと考えスタートする。縦走路ほど顕著ではないが、こちらにも古い足跡が認められる。ここからは一端下ってまずは1184ピーク、次に源頭部を巻くように北へ向きを変えて1158ピークを、さらに西に向きを変えて頂上手前のピーク、そして、頂上斜面へと大きな登り返しが4回あるが、どれも結構な標高差である。それぞれのコルを挟んで見ると、どの斜面もかなりの急斜面に見えるが、実際登ってみるとそれほどでもないのがうれしい。左側には、漁岳と小漁岳の左側に恵庭岳の頂上部分が頭を出してくる。また、頂上が近づくに連れて狭薄山の東斜面の荒々しさが際だって見えてくる(6)。いよいよ最後のコルから頂上への登りであるが、この斜面がもっともきつい(7)が、ここだけはみんな同じところを歩くらしく、しっかりと古いステップが刻まれていて新しいステップを刻みづらい長靴登山としては非常に助かる。

 3時間50分で頂上到着。相変わらず霞んだ感じで空沼岳(8)より南の展望は漁岳と小漁岳までで恵庭岳も微かに見えているが、カメラに写しても写らない程度である。反対側は札幌岳までははっきり見えるが、無意根山を初めとする札幌近郊の山並みも全然見えないのが残念である。

 頂上のダケカンバの幹に新しい書家の字らしい立派な刻字の頂上標識が括り付けられている。これが、先週登ったHYMLの仲間の情報によると、私と同じ豊滝ルートから登ってきた年輩の方が付けていったという設置後1週間のピカピカの標識らしい(9)。裏を見ると「三角の頂きまねく狭薄山 訪ね行きたし雪踏み分けて 平成十五年浅春 峯風」と書かれ、花押まで押されている。全く私の思いと重なるこの山に寄せて来たであろう思いとようやくそれが叶った思いが伝わる句である。

 ハイマツの陰で風を避け、久しぶりにガスを使ってラーメンを食べて30分ほど休憩して下山を開始する。戻る札幌岳が左側に見えるので、なぜかそちら側へ下りがちである。GPSのトラックログを見ては修正する。行きでピークを越えた1158は、コルからコルまでの間南側の斜面をトラバースして、来たときのルートに戻ったら、2人ほどの新しい足跡が頂上へ向かっている。どうやらこちらが下を通っている間に、行きの私のトレースを辿って上のピークを越えたようである。その後とうとう誰とも出会わなかっただけに残念なニアミスである。

 1184ピークはかわして左側から斜めに縦走路をねらって少し近道をする。あとは来た道を戻るだけである。どうやら足跡を見ると狭薄岳へ向かった人たちもこちらと同じ豊滝コースから来たようであるし、札幌岳へ向かったと思われる新しい足跡も続いている。1036コルからの疲れた足にはきつそうな急な長い登り返しの急斜面は、長靴ゆえにステップを刻めないのでジグを切ったり、または木の生えている際を登ったりしながら高度を上げていく。行きで緊張した1147ピーク下のトラバース地点は、高所恐怖症の自分にとってはこのルート中でもっとも怖いところであった。下を見ないようにして50歩ほどの恐る恐るの通過である。

 縦走路から豊滝コースへ下りる急斜面はグリセードを楽しみながら下っていく。途中で躓いて一回転し、背中で20mほど滑落する。その後も雪渓と藪が交互に出てくる急斜面で、雪の踏み抜きで4回も転ぶ。極め付きはトラバース最中に20mくらい滑落してエゾノリュウキンカの咲く沢の中まで落ちたことである(10)。沢の中を少し下って別の小沢を登って尾根を乗り越し登山道へ出て一安心である。だいぶ登りより南側に寄っていたようである。

 車のデポ地点まで来ると、車がさらに2台駐まっている。どうやらこの人たちが足跡からして狭薄山へ向かった人たちらしい。林道を走って行くとゲートが閉まっていてびっくりする。車を降りて見たら、錠がぶら下がっていなくてホッとする。ところがそれもつかの間、舗装道路へ出る寸前でなんか車が変な音がして、走りが渋い。降りてみると左前輪がパンクしている。舗装道路まで出てタイヤ交換をする。これで、この車になって3度目であるがどれもこの時期の林道走りばかりである。崖から鋭い岩や石が落ちているせいであろう。

 疲れた体に鞭打ちながらタイヤ交換をして、黄金湯温泉まで走り、汗を流して帰路に就く。中山峠から見る狭薄山は親近感が湧き、これまでとは違う思いで眺めることができた。


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