最高の天候の中、念願のピリカヌプリを目指す
 22時頃、風が強くなってきたので外に出てみたら、強風が吹き荒れるるホワイトアウトの世界だったが、0時頃EIZIさんの声につられて外に出たら、嘘のように晴れ渡り、遠く日高の海岸線の町の灯も見えている。二人とも3時過ぎに起きて、朝食の準備をする。4時を過ぎると、東の空が明るくなり、日の出を迎える(1)。

 太陽が海面近くのガスを抜けると、山々が輝き出す。北峰とそこから続く稜線の間に目指すピリカヌプリが見える(2)。

 4:50、日帰り装備にアイゼンを装着し、ピッケルはリュックに入れ、ストックを持って、北峰を越えて長く続く稜線の向こうのピリカヌプリ目指して出発である。「果たして、この高所恐怖症の自分が最後まで行き着けるであろうか?」という不安感も頭をもたげるが、「ここまで来たら、這ってでも行ってやろう!」と腹を括る。

 北峰までも両側が深い谷底まで切れ落ちる細い稜線である。慎重に進むうちにだんだん慣れてくる。30分ほどで、鋭く尖った狭い北峰に到着する。当然、その先に聳えるピリカヌプリとそこまで続く細い稜線が目に飛び込んでくる。初め、あまりにも近くに見え、その左奥に見える神威岳をそれと勘違いしてしまうほどであった(3)。

 北峰から少し下がったところに少し離れて2張りのテントが見える。一つは昨日我々のあとから到着した3人パーティであるが、もう一つは、5年以上も前からお付き合いをいただいている登別在住の『日高山脈に燃えて』の著者Kaさんから「同じピリカヌプリを目指して29日から入っています」とメールをいただいていた彼女の仲間の2名に違いない。初対面の楽しみができる。後ろを振り返ると、東峰との間に日高山脈最南端のカールを抱いたトヨ二岳本峰(南峰)が見える(4)。

 北峰の比較的広い稜線を下ると太陽の光線の当たっているところとそうでない深い谷のコントラストの面白い眺めが展開する。こちらから見通せる途中の最高地点である1512ピークまでの稜線は比較的幅広で心配なく歩けそうである(5)。先を見ると3人が登っているのが見え、そのほかにも足跡から見ると3人がすでに登っているようである。


 北峰から1時間ほどで、途中の最高地点を通過し、急な広い尾根を下る(6)。その先の稜線がこのルートの最難関の細い稜線が続く。ここまで来てギブアップは絶対したくない。ストックで3点確保をしながら、できるだけ視野を狭くして、先行者の足跡だけを見ながら、頑張って自分が先となって進ませてもらう。その狭く尖った稜線の上で立ち止まるのが怖いので、立ち止まることができない。上から、気付かなかったが北峰の頂上にテントを張ったという単独の男性が下りてくる。この山に単独で入ることに感心してしまう。

 1512ピークから30分ほどで、この稜線の最低コルである1315地点に下り立つ。ここから標高差316mの急登を登り詰めると、念願のピリカヌプリ頂上である(7)。上から2人の男性が下りてくる。登別のKaさんからメールをいただいていた、しかも彼女の本やHPによく登場する二人に違いないと挨拶をすると、やはりそうである。彼等もKaさんから言われていたそうで、前日の停滞ついでに、我々がテントを張る予定の南峰と北峰の間のコルの上まで見に行ったそうであるが、我々がまだ到着していなかったそうである。
彼等と別れて急な登りを続ける。途中、ジグを切らなければ直登できない箇所も多くある。

 かなり、頂上が近くなり、「あとは楽勝!」と思った途端に、これまでなかったような極細の箇所が現れる。ついに、EIZIさんに先に出てもらい、自分は彼の踵だけを見ながら怖々後ろから付いていく。

頂上直下は下りが心配なくらいの急登である。途中で3人パーティの一人を抜いて、先の2人に迎えられて頂上に立つ。ついに2年越しの北海道『百名山」118座完登の瞬間である。最高のエクスタシーの瞬間である。特に最後の3山(野塚岳、知床岳、ピリカヌプリ)のよきパートナーとなっていただいたEIZIさんと、がっちり感謝・感激・感動の握手をする。記念写真を撮ってもらおうと思ったら、EIZIさんがリュックから突然思ってもいなかったプレゼントを差し出してくれる。「北海道100名山 118座完登 ●夢を運んだピリカヌプリ」と印刷された一文字である。彼の熱い友情溢れる心遣いに感激で涙が溢れそうになった。それを二人でも持ち、これまでの山で最高の記念写真撮影となる(8)。

 それにしても、この時を祝福するような見渡す限りの眺望がすばらしい。北側には自分のこれまで登った山々・・・隣のソエマツ岳、昨夏に藪と格闘して歩いた神威岳の間の稜線、端正な姿やペテガリ、そこに繋がる東側の屏風のような稜線、さらには1839峰、カムイエクウチカウシ、札内岳、十勝幌尻、エサオマントッタベツまでもがくっきりと見える(9)。

 南側には、ここまで辿ってきた細く続く長い稜線の先にトヨニ岳北峰が、その奥に南峰、さらには、やはり一昨夏二人で縦走した野塚岳〜オムシャヌプリ〜十勝岳、さらに楽古岳、その右奥にアポイ岳、吉田岳、ピンネシリまでくっきりと見える(10)。さらには、両側が見えるのは滅多にない十勝平野と日高側の海岸線までも広がっている。

 おまけに無風である。いつまでいても飽きることない展望と感動に酔いながら40分ほど休憩し下山開始である。まだ9時といううれしい時刻である。2泊3日の予定で来たが、明日は天候が崩れる予報である。今日中に余裕で下山が可能なので、計画を変更して今日中に下山することに決めて、自分にとっては夢であった頂上をあとにする。

 



下山につづく


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