[74] 西クマネシリ岳(1635m)[音更川右股三の沢コース] 96,6,9 [天候・快晴]

早朝のオッパイ山から、朝日に輝く東大雪の大展望を楽しむ。
 十勝三つ股付近から望む通称オッパイ山
3:20 糠平キャンプ場発
登山地点下山
4:10
5:05
5:50
登山口
尾根取り付き
頂上
8:05
7:15
6:45
[1:40]所要時間[1:20]
8:30 糠平キャンプ着
前日のウペペサンケ山に引続き、十勝三股付近や向かいのニペソツ山などから見ると、まさにオッパイ山という艶めかしい通称がぴったりの右側の乳房(西クマネシリ山)に登り(1)、乳首に見える頂上岩峰を撃登り、朝日に輝く東大雪の山々を眺めるために、夜の明けないうちに糠平キャンプ場を出発。まだ薄暗い国道273号線を走るが、夥しい数のエゾシカが道端にたむろしていて、車を見て林の中に逃げ込むのはいいが、道の上で動こうとしないものや車の前を横切って逃げるのにはびっくり、何回もライトを点滅したり、ブレーキを踏んだりさせられる。
 
 整備されたシンノスケ三の沢林道に入り、登山口で上空を見上げると、白い雲が黄金色に輝き始める。熊避けの笛を吹きながら、広い林道跡を進むが、すぐに明らかに増水時には川となるであろう川底状態の石ころだらけの道になる。道の表面に、目指す尖った頂上が逆光の中に黒く浮かぶ。
 頂上岩峰を見上げる
 途中、傾いた営林署の休憩小屋を右に見て、二股に分かれる地点で沢から離れ、真っ直ぐ進む。そこからは、もう使われていない真ん中を深い雨裂が走る急な道となる。雨裂の両側にはエゾシカの足助が無数についている。無風で、静かな早朝の小鳥の合唱を楽しみながら、ところどころの木の枝にぶら下がっている赤いテープの目印を辿りながら登って行く。涸れ沢状態の沢を横切って、尾根に取り付くのだが、その沢には水がない。あわてて、伏流水が顔を出すところまで戻って水を汲む。

 尾根取り付き部分から林の中に入るが、振り向くと、屏風のような残雪に覆われた石狩連峰が朝日を真横から受け、眩しく輝いている。そこからは予想した通り、かなりの急な登りである。風倒木の多いシラカバとトドマツ、エゾマツの混合林の中を縫ってどんどん高度を稼ぐ。やがて、右側が足元から断崖のように削られ、石灰状の白い地肌をさらけ出して凄味さえ感じる深い谷の源頭部が突き上げる。頭上には、高所恐怖症の自分には手強いであろう乳首部分に見える頂上岩峰が待っている(2)。 
 尾根がだんだん細くなり、針葉樹が切れ、足元がミヤコザサに覆われ、まだ芽吹いたばかりの幹の白さだけがやけに目立っダケカンバの林を抜けるとハイマツが顔を出し、それまで目指す山の陰になっていた朝日が真ん前に顔を出す。
 
 やがて、岩場の下に到着。太陽が当たらないで陰になっているだけに黒っぽく不気味である。夏場はいろいろな花が咲くらしいが、高所恐怖症の自分にとっては冷たく拒もうとする障害でしかない。いよいよ戦いである。知沫硫黄山や恵庭岳の頂上岩峰や黄金山の旧道の岩壁を思い出しながら、視野を意識的に狭くしながら、四つん這い状態で一歩一歩挙登る。すると突然、明らかに岩上のルートが切れ、岩の聞から谷底が覗く箇所に出くわす。いくらきょろきょろして進むべきルートを探しても見当たらない。どうやらその切れた部分を跨ぐらしい。横の岩に抱き着きながら恐る恐る足を伸ばし、次の岩に足を掛けて通過するしかないのである。そのあとも、ハイマツの根っこや岩に掴まりながらのロッククライミング状態の登行が続く。ずいぶんと長く感じたが、下りはあっという間であった。
 片方の乳房に当たるピリベツ山
 ふと下を眺める余裕が出たところで、良く写真で見る「影富士」状態のこの山の影が下の裾野の林の上に三角形にくっきりと映っている。思わずカメラに収める。早朝登山でしか目にすることのないうれしいプレゼントである。 下から見ると頂上に見えた岩峰の奥にまだハイマツの細い岩稜が続く。それを辿ると周りがハイマツに囲まれた頂上に到着。頂上標識もなく、座るとハイマツで展望が遮られるので、引き返して、登り切った地点の岩峰の上に陣取る。
 
 片方の乳房に当たる隣のピリベッ岳越しに北大雪の山々(3)、それに続く東大雪、表大雪、十勝連峰の山々が朝日に輝いて見える(4)。十勝平野は昨日と同じく雲海に覆われているが上空は快晴、天気予報からは考えられない素晴らしい天候である。遠路はるばるやって来た甲斐があると満足感に酔い知れる。 それらの大展望を独り占めにしながら、背負ってきたガスとコッヘルを取り出し、お湯を沸かす。カレーうどんとバナナとソーセージの朝食に舌鼓を打ち、しばし休憩。
 
朝日を受けて輝く東大雪とその奥の表大雪の山々 いよいよ下山開始。登りで苦労した岩場の通過は思ったより怖くないなと感じた途端。どうやって登ってきたのか記憶に無いところを下っている。それより下はどうしても足の掛けるところは無いし、絶対こんな所は登ってこれるはずがないと思うようなところである。変だなと思い、上に撃登って良く見ると、登りで岩に抱き着いて跨いだ岩の切れ目を下の方に降りていたことに気付く。
 
 あとはるんるん気分で、急な尾根道を滑るように下る。尾根の取り付き部分の道を見失いブッシュを漕いで登ってくる5人の家族連れに出会う。見ると5才くらいの女の子がいる。あの岩を跨ぐ地点は無理ではないかと思い、「抱いて渡すしかないですよ」と話してやったが、どうなったでろうか。 伏流水の湧き出ている地点で、コーヒー用に持ち帰るべく二つのポリの入れ物にいっぱい汲んで登山口を目指す。
 
 いっも走る度に北海道で一番快適な国道だと思う273号線の両側に続く新緑と白のツートンカラーが爽やかなシラカバ林と表面にどっしりと聾える昨日登ったウペペサンケ山の様子やこの足で辿った稜線を眺めながら、テントを張り放しにしてある糠平キャンプ場を目指す。
                                    

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