中ノ岳(1519m)  ニシュオマナイ川左股沢・南西面沢  単独 04,7,02

今年初の沢登りは、中日高のペテガリ岳と神威岳の間に位置する訪れる人の少ない静かな山であるが、羊蹄山や恵山、下北半島まで見えるかつてない展望に恵まれる。

7/1
  神威山荘前(車中泊)
7/2
登り
地点
下り
4:10
4:40
6:40
7:35
8:30
9:10
登山口
430二股
870二股
源頭崖上
稜 線
頂 上
13:20
13:00
11:25
10:55
10:30
10:10
[5:00]所要時間[3:10]

15:30 浦河・あえるの湯
         (入浴)
18:30 音更着

 『北海道の山と谷』によると、歴舟川の中流域で3本に分かれる真ん中の川が中の川で、その水源に位置する山なので、「中ノ岳」の名が付いたそうである。中日高の名峰の両雄であるペテガリ岳と神威岳の挟まれた山で、目立たなく訪れる人の少ない静かな山である。


 この山には胸の痛む思い出がある。10年前に初めて神威岳に登ったときに、地図を忘れたのに、なんとかなるであろうと登り始めたが、430二股で間違ってこの山のルートとなる左股沢へ入ってしまう。函の手前の笹薮の踏み跡で、この山に登るグループに出会い、間違いを指摘されて、正しいルートに戻ることができたのである。もし、彼等に出会わなかったらどうなっていただろうと胸をなで下ろした辛い思い出である。当時は聞いたこともなかったこの山にまさか10年の歳月が流れ、この自分が単独で登ることになるなんて、考えてもみなかった山である。

  『北海道の山と谷』では、「!」の沢であるが、それは急な滝が連続する直登沢である。870二股から分かれる右股沢を採ると、急な滝もなく自分にも登れそうだという情報を数年前に得ていたが、トライする機会がなかった。しかし、昨夏、二人で神威岳〜ソエマツ岳の辛い藪漕ぎ縦走をした後まもなく、EIZI@名寄さんが登ったので、その記録を参考にして、このたびのトライとなる。

 前日、南日高の広尾岳を下山し、天馬街道を抜け、登山口となる神威山荘前で朝を迎える。今年初めての沢登りである。渓流スタイルに身を固め、普段は使わないが渡渉や石を伝い歩く際のバランス保持に便利なストックを持ち、リュックの中に源頭から上の藪漕ぎに威力を発揮するノンスリップ携帯靴を入れて、多分必要のないヘルメットをリュックに括り付けて出発する。まだ一人では十分に使いこなせない懸垂下降の道具は、それが必要なところに出会ったら戻ることにして持たなかった。

 天候のまったく心配のない夜明け間もない早朝である。時間的余裕も十分ある。それだけでも心は軽い。430二股から左股へ入る。『北海道の山と谷』には、まもなく現れる函をかわすには渡渉地点手前の左側の踏み跡を辿ればよいようなことが書かれていたが、その踏み跡もよく分からないので、EIZIさんが巻いたという左岸に期待する。まもなく暗い函が現れる。中を少し進んでみるが、やはり高巻きした方が良さそうである(2)。戻って、左岸の笹薮の中に踏み跡を探し、急な笹薮斜面をよじ登り、再び急な斜面を下ると高巻きが終了する。しかし、下りる側には明確な踏み跡は見つからなかった。

 そのあとは明るい沢で、変化も少なく、高度も稼げないが快適な沢歩きが続く。ほとんど沢の中を歩くのせいなのか、訪れる人が少ないせいなのか、表示テープもまったく見当たらず、ときどき平坦な草地に鹿道かも知れないが、微かな踏み跡が認められるのがうれしい程度である。600mを越えるとようやく狭くなり、傾斜も増し、小滝が連続するようになる。表面に1445からの急な滝が連続する沢が見える。

 670m地点で、連続する段差滝の函状のところにぶつかる(3)。その手前の左岸に唯一の赤いテープを発見する。どうやら高巻きの踏み跡があるらしい。滝の中を覗くとどうやら登りは突破できそうなので、緊張しながら突破する。しかし、下りは危険な感じなので、高巻きをすることに決めて前進する。700二股を右に採ると沢の表面に1372の岩峰とその左側に中ノ岳の前峰が見えている(4)。ここからは様相が一転し、崩れた岩が積み重なり、小滝の連続する急な沢となる。

  740附近でまた4段ほどの連続する滝が現れる。ここは、合流する小沢から左岸を巻く。この辺りから斜度が増し、どんどん高度を稼ぐのはいいが、振り返ると結構急で怖い感じさえする。いよいよ870二股である。デブリの名残の雪も岸に残っている。直登沢を覗くと連続する急な滝が見える。高所恐怖症の自分にはとんでもない沢である。EIZIさんはここを下りに使い、3回の懸垂下降をしたそうである。計画通り、右股を進む。

 1040二股で流れのある左股を進むが、表面に源頭と思われる崖が見えている(5)。直ぐにガレ沢となり、崩れた岩の広がる下の伏流となる。源頭の崖にぶつかる。ここで、標高差800m弱の沢歩きの終焉である。ところがそのどこを登ればいいのかよく分からず、右側の大きい崖へトライするが、怖いので左側の小さな崖の右岸を登り、崖の上へ出る。その上はダケカンバ林の笹薮である。そこで、ノンスリップ携帯靴を渓流シューズの上から付けて、その後の急斜面の藪漕ぎに備えて休憩する。

 たいてい源頭の上にも涸れ沢は続くものであるが、それをうまく見つけられずに、どうせ稜線を目指せばいいのだからと、それほど深くない笹薮を登り始める。途中で鹿道を見つけてそれを利用しながら、斜度の増す斜面を大きくジグを切って登っていく。登っていく途中から左手に1372の岩峰が見える(6)。EIZIさんはその下を狙ったので、そちらにあるいは源頭の上の沢地形があるのかもしれないので、下山にそちらの方を下ってみようと思う。
 
 藪漕ぎを続けている内に、左手のストックが無くなっていることに気付く。探してみるが見つからず、諦めて登り続ける。日高の源頭の上の藪漕ぎはストックは邪魔なだけなのは知っているのだが、源頭にデポしなかったことを悔やむ。そのうちに、右足のノンスリップ携帯靴も紐がほどけていつの間にか無くなっている。滑る右足は右ストックでカバーしながら登っていく。
 
 1時間弱の苦しい源頭の上の藪漕ぎをからようやく稜線に出る。まず、目に飛び込んできたのが、前峰の稜線から続く中ノ岳の頂上である。ようやく頂上との対面である(7)。稜線の上には南日高特有の鹿道兼用の明確な踏み跡が付いている。細い岩稜もある稜線を前峰まで辿ると、ハイマツ帯となる。そのハイマツ帯の中にもよく探せば踏み跡は続く。
 
 前峰から方向を変えて、コルを越えて頂上を目指すことになるが、踏み跡ははっきりと付いているのにハイマツが非常に深くなる(8)。一本一本手で掻き分けながらのこの山一番の辛いい登りが続く。しかし、頂上は近い。途中の左手には隣のペテガリ岳と1839峰が間近に見える(9)。

 振り返ると、日高山脈の国境稜線上に、鋭く切れ上がる1372岩峰と1493ピークの向こうに堂々とした神威岳とその左にソエマツ岳が見える(10)。それらの展望を励みに最後の藪漕ぎを続けて、スタートしてから5時間ジャストで頂上到着である。

 裸地になっていて、ハイマツの枯れ幹にテープが結ばれただけの静かな頂上である。北側には早大尾根が屏風のように連なり、その向こうには十勝側の太平洋が広がる(11)。

 南側には、1493ピークの向こうに、昨夏EIZIさんと藪漕ぎで越えた辛い思い出が蘇る神威岳〜ソエマツ岳の稜線や今年のGWにやはり二人で登頂した「北海道百名山118座完登」のピリカヌプリなど(12)。

 北側にはペテガリ岳の端正な山容と、やはり「北海道百名山」(山と渓谷社)完全一人歩き完登の1839峰とヤオロマップなどの山に、自分のこれまでの山行のいろいろな感慨に思わず耽ってしまう。ただし、その北側の山々はそれらに遮られて見えないのが残念である。

 落ち着いて、遠望に目を移すと、羊蹄山から噴火湾を挟んで、我がテリトリーである駒ヶ岳、横津岳、恵山、さらに下北半島まで見えている。これらの山を日高の山から見たのは初めての経験で新鮮な驚きである。東側にも阿寒の山が見える。それらの展望を楽しみながら、無風で、高曇りのためそれほど暑さも感じない最高の状況で、EIZIさんにお礼の電話やHYMLへのメールを送ったりして、1時間ものんびりとする。

 立ち去りがたい思いを断ち切って、高所恐怖症の自分には登りより緊張の下山を開始する。登りでは辛いハイマツ漕ぎも下りは枝の向きが下を向いているので楽である。前峰から細い稜線を辿り、登りで到着した地点を越えて1372岩峰へ近づいていくと、根元に踏み跡が見え、その急斜面の中にまっすぐ続く涸沢地形が目に入ってくる。案の定、その中を藪に掴まりながらどんどん下っていくと、ちょうど源頭の崖の上に出る。急斜面の下りは速い。登りに1時間35分要したところを半分以下の40分で下る。しかし、その下の急な沢歩きはそうはいかない。1040二股まで下りて、片方だけになったノンスリップ携帯靴を外して一息入れる。

 600m附近までは急なガレ沢で、自分の踏んだ石がガラガラと転がり落ちていく。一歩一歩慎重に下る。670附近の登りで中を突破した函状の連続する滝は、ちょっと下ってみたが、やはり滑落の二文字が頭に浮かび、戻って左岸の急斜面の笹薮に突入する。笹に掴まりがならトラバースして、下り始めてまもなくというところで笹を掴んだ手が滑り、背中を下にして滑落したが、何かにリュックがぶつかり途中で止まりホッとする。見ると、ダケカンバの横に延びた幹にぶつかったのである。それがなければ、川岸の岩の上に落ちていただけにホッと胸をなで下ろす。ちょうどそこには、このコース唯一目にした赤いテープが結ばれていた。

 最後の函の高巻きを越えると、変化に富んだ単独では冒険的要素の強かったこの山行も無事終焉である。高巻きから沢に戻らないで笹薮に続く踏み跡を辿ると神威岳の登山道へ出る。そのまま200mほどで430二股に到着する。あとは林道跡を辿ってゴールインである。朝起きたときに隣に止まっていた練馬ナンバーの車はすでに神威岳を下山していなかった。

 浦河のあえるの湯で汗を流し、天馬街道沿いの山仲間に人気の高い素朴な手打ちそば屋の「春別」で天ざるそばを食べて帰路に就く。


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