稜線上の比麻良山から縦走路を繋ぐ。

 平山頂上は前回踏んでいるので、縦走狙いの今回はパスして、15分ほど休む。その後、前回ニセイカウシュッペへの吊り尾根をピストンしたために踏み損ねた比麻奈山とその先の比麻良山を目指す。歩き出すと、足下の水たまりが凍っているのにびっくりする(1)。

 広い稜線は夏場はみごとな花畑状態であるが、今はピークを過ぎたウラシマツツジの紅葉と枯れた草だけの寂しい様相である。進むに連れて大槍、小槍の鋭鋒を従えたニセイカウシュッペの全容が近づく。8年前に比麻奈山の手前から吊り尾根をピストンした際、恐る恐る越えた通称アンギラスの荒々しい姿が懐かしい。

 20分ほどで、 この稜線上の最高峰へ到着する。ここは「比麻奈山(ひまなやま)」と名付けられ、標識も建っている(2)。多分、これも無理のある感じのアイヌ語のヒム・オマ、ヌプリ(崖のある山)が語源という隣の「比麻良山(ひまらやま)」と一緒に命名されたのであろうが、どちらも、ふざけた感じの山名でどうも好きになれない。比麻奈山の先には、これから進む比麻良山のピークとその先の文蔵岳〜有明山〜天狗岳がずっと見えているのがうれしい(3)。

  さらに進むと、北西方向のずっと奥に尖った山のてっぺんだけが見える。どうやら位置的に利尻山のようである。天候がよく雨上がりなこともあり、かなり遠望が利く証拠であろう。さらに10分で比麻良山頂上であるが、ここには二等三角点が設置されている。平山の向こうに東大雪の山々もくっきりと見えている(4)。

 ここから先が、新しく開削された縦走路である。次の文蔵岳の緩やかなハイマツ斜面にその痕跡が見えている。足下がフカフカして非常に気持ちのよい踏み跡がハイマツ帯を避けるように、花畑状態の中に続いている。低いハイマツ帯には新しい鉈目や鋸目が入っているが、そうでない踏み跡はまだはっきりとしてなく、ときどき見失う。しかし、ところどころに赤いテープや四角いプラスチックの杭が立っているので心配ない。

 比麻良山から30分ほどで、低いハイマツ帯の中に新しく開削された道を登り切ると、平らな石が積まれたケルンだけがある文蔵岳頂上である。ここから眺めるニセイカウシュッペと8年前歩いた吊り尾根とその下の紅葉の眺めが新鮮である(5)。

 ここまでは、いくつものピークを越える変化のある歩きと常に大展望が広がる楽しい歩きである。しかし、ここから約400m下り、林の中をさらに300m登る緩やかな有明山までが非常に遠く感じるのは否めない(6)。2時間以上は掛かるであろうと腹を決めてスタートする。

 稜線の上の道を下っていくと、1570m付近で背丈を遙かに越えるハイマツ帯のに突入し、すぐにダケカンバ林の中のやはり背丈の高い笹薮に入っていく。この辺りから縦走路開削の苦労が偲ばれるところである。

 幅広く刈り払われているので、快適な道となっている。どんどん下っていくと、周りのダケカンバやミヤマカエデの黄葉がきれいになってくる。

 <注意!>最低コルの手前の1360m付近で開削道の分岐にぶつかる。左側が稜線上の縦走路らしいが、その先の2本の木の幹に進入禁止と勘違いしそうな赤いテープが横に張られている。先を見ると、笹刈りはなされているが踏み跡がはっきりしていないので、不審に思いながらも、多くの人に歩かれて踏み跡がはっきりしている右側へ進むと、どんどん下って行く。これは違うと思い、距離にして50mほど下がったところで、地図で確かめると、その直ぐ下まで支湧別川二の沢林道が入っているので、開削作業をした人たちがそこから上り下りした登山道らしい。慌てて分岐まで戻り、左側の稜線上の縦走路を進む。

 この辺りから振り返ると、樹間から文蔵岳の緩やかな紅葉斜面が覗く。下の方はトドマツの濃い緑とダケカンバの黄葉のコントラストがきれいである(7)。やがて、最低コルを通過する。分岐から有明山側は開削されてから年数が経っているらしく、鋸目も古く、ところどころで両側から笹が迫ってきているところもある。有明山の登りに掛かると、それまでほとんど目にしなかった台風18号による倒木が出現し、せっかく開削した縦走路を塞いでいるものもある。

  高度を上げていくと、再び、最近整備し直されたと思われるような広い快適な道となる(8)。最後はハイマツ帯の中を登って行くと、左手に一段高いピークが見える。そこが頂上と思って進むと、突然、ハイマツ林の中に、二等三角点と測量ポールが立つだけの裸地に出る。左手の高いピークの方に進む踏み跡さえ見当たらない。地図で確かめると、そこが有明山頂上である。まったく頂上感のない頂上である(9)。南側に古い登山道らしき道があり、赤いテープで遮られているが、どこから繋がる道か不明である。

 展望もないので、少し先へ進むと、東側の眺望が広がる。正面には登山道が稜線上にはっきり見える天狗岳が(10)、南側には支湧別岳〜武利岳〜武華岳の山並みと右手前に平山の隣の丸山が見える。

 ここまで、かなり飛ばして5時間10分、まだ10:30である。あとは天狗岳を越えるだけの概ね下りである。あと2時間ほどであろうと見込む。のんびり休んでも、13時過ぎには下山できるので、下山後のMTBでの車の回収も楽であろうと、ポカポカ陽気の中、昼食タイムでのんびりと35分ほど休憩する。

 急な稜線を下り、コルへ下り立つとそこは草原状のところで、急な稜線の上を見上げると天狗岳の岩の頂上が見える。この登りがこの縦走路でもっともきつい急登である。有明山から30分で、4年前のGWに山スキーで登って以来の2度目の天狗岳頂上である。

 天狗岳の名前に相応しい岩峰の頂上には頂上標識が付いていたと思われる木杭とその下に祠が祀られている。その南側には支湧別〜武利岳〜武華岳の山並みが連なっている(11)。
 
 いよいよ最後の下りである。まずは前天狗を目指して下り、そのピークをかすめて、スキー場の上の反射板が設置されている小天狗までの急な尾根を下る。この間は「電光坂」と名付けられている。山スキーで登下りしたときはその東側の笹斜面を利用するので、登りは電光を描いて登ったが、登山道はジグを切っているわけではない。この電光坂の倒木は凄かった。直径5m以上もの根っこの木があちこちで根こそぎ倒れているのである。

 小天狗を越えると、ようやく北大雪スキー場の第3リフトの終点に到着し、眼下に長い縦走のゴールが見える(12)。標識からすると、あと3.5kmほどである。1時間の見込みで、ゴールを楽しみに、スキー場の中に続く登山道を黙々と下る。スキーで滑り降りたら、どんなに速く楽であろう。

 平山登山口をスタートして8時間弱で、MTBをデポしてある文化村ロッジの山の家へ到着する。『夏山ガイド』に書いている8時間はなんとかクリアできたが、単独行で、軽量化と意識的な速歩の結果であり、通常の場合は、10時間は見込んだ方が適切な気がする。

 これで、ホッとしてはいられない。MTBによる平山登山口までの18km弱のきつい車の回収作業が残っている。リュックを山の家の中に置いて、貴重品だけをウエストバックに入れ、スポーツドリンクを1本だけ持って、スタートする。支湧別川沿いの道へ合流するまでの7kmほどは下りの舗装道路なので、快調なダウンヒルを楽しむことができる。その先も2kmほどは舗装道路で傾斜もそれほどない。残り8km強の平山登山口までの未舗装の支湧別川本流林道が課題である。最初はそれほど斜度もなく快調にペダルを踏む。

 林道を2kmほど進んだところで、後ろから車がやってきたので道端に停まったら、車も停まってくれる。「平山登山口まで行くなら乗ってください。」とのことである。しかも、後ろが荷台となったトラックタイプのRV車で、MTBまで積んでくれる。残りの30分はMTB、最後の1時間は歩きを覚悟していただけに大いに助かる。道すがら話していると、退職後、四国の愛媛県からこの白滝村が気に入って住み着いて10年になるという老夫婦である。登山口から滝と周辺の紅葉を楽しむために来たのだそうである。お陰で、予定より1時間以上も早く車を回収することができた。再び天狗岳登山口の山の家へ寄り、リュックを回収後、白滝グランドホテルで入浴し、HYMLの月例会へ参加するために札幌へ向かうが、それほど遅刻しないで済んだ。

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