狗神岳(ぐしんだけ)(899.4m)<森町/八雲町>
西尾根ルート  単独  かんじき&ピッケル 07,3,01

          念願の道南の秘峰中の秘峰・登頂記録がほとんどない岩稜の山へ自ら見つけた日帰りルートで登頂

 5:00 自宅発
 6:30 道道八雲厚沢部線・山蕗駐車公園
登山
地  点
下山
 6:35
 6:45
 8:10
 8:35
 9:20
10:00
12:00 
山蕗駐車公園
上二股川渡渉
乗っ越し尾根ピーク
釜別川渡渉
493ポコ
594ポコ
頂 上
15:15
15:00
14:25
13:45
13:20
13:00
12:20
[5:25]
所要時間
[2:55]
15:45 銀婚湯温泉(入浴)

 森町と八雲町の境界線上に聳え、森町の濁川盆地の南側からしか目に触れることのない山で、東面と南面に岩崖を巡らせ、稜線には岩峰を連ねる厳しい山である(1)国土地理院の1/25000の地形図名にもなっているのに、人を寄せ付けず、登頂の記録はほとんどない秘峰中の秘峰である。

 狗神岳・・・いかにも威厳に満ちた名前がいい。ずっと天狗の神が住む山の意かと思っていたが、狗は犬の意味らしい・・・と言うことは犬神の山か?そうであれば、ちょっとがっかり・・・いずれにしても山名の由来は解らない。

○思いもよらぬ日帰りルート発見

 900mにわずか届かない山であるが、夏ルートもなくアプローチが非常に難しい山である。一番近い濁川地区からは崖状の急斜面と岩稜が阻む。手に入れた情報は2つ。体力化け物コンビの二人がラッセルなしの好条件でさえ10時間も要して、濁川ダムから澄川の源頭を取り囲むように800m超峰をいくつも連ねる稜線を繋いだSHOさんとHaさんの、それも2回目で登頂できた2003年3月の南尾根の記録。・・・35mのロープでの確保やランニングビレーなどの技術を駆使しての記録である。私には体力以上に技術面で到底無理なルートである。もう一つは、自分が登れる可能性があるとすれば西尾根である。その尾根取り付きまで釜別川沿いに林道が入ってはいるが、10kmもある。これも一泊が必要である。その10kmを歩いて1泊して踏破したSaさん(昨夏突符岳紋内岳に同行)の4月の情報である。

 しかし、自分としては、もっと簡単に日帰りでこの西尾根を登ることができないか、地形図とにらめっこしているうちに、すばらしいルートを発見。それは、数年前から通年除雪されるようになった道々67号八雲厚沢部線と釜別川沿いの西尾根取り付きまで距離が2kmも離れていないことである。それも、標高差わずか180mの尾根を乗っ越すだけで済む。さらに、尾根取り付きから頂上までの標高差600m、沿面距離2.7km。これは日帰りが十分可能なルートである。

 ただし、気になったのはSaさんのときは雪解け水で釜別川の水量が多く、胴長を持参したが渡渉に苦労したということと、750m付近に現れるというナイフリッジの痩せ尾根である。水量については、前日にその下見に行こうと思っていたら、折しも私のこのルートのことを耳にしていた日本山岳会コンビの大ベテランUさんとKaさん(正月の檜倉岳に同行)が2日前に西尾根取り付きまで下見に行ってきたとのこと。「水量は長靴でも渡れる」とのことであった。実にタイミングのいい情報に下見の必要がなくなった。今年は雪が少ない上にまだそれほど雪解けが進んでいないからであろう。あとの気懸かりは恐怖のナイフリッジの痩せ尾根だけである。無理であれば、その場で途中撤退も考えることにして準備をする。

○まずは、釜別川への尾根乗っ越し・・・

 かんじき、ピッケル、購入したばかりの12本爪のアイゼン、プラブーツ、渡渉対策に長靴ほかを用意した。結果的にアイゼンの出番はなかった。

 6:35、道々67号八雲厚沢部線の山蕗トンネルの八雲側にある山蕗駐車公園に車を置いて、上二股川と釜別川の渡渉に備えてプラブーツはリュックに詰めて長靴でスタート。道々を600mほど八雲側へ下り、大きくカーブする地点から上二股川へ下りる。2日前のUさんとKaさんのトレースが残っている。上二股川の渡渉は浅く、石を伝えばプラブーツでも渡れそうであった。長靴にかんじきを着けて、小沢の入り組む広い沢地形の中を進む。

 UさんとKaさんのトレースを辿って尾根に取り付くときに、自分の考えていた尾根を方向が違うような気がしたが、地図で確かめることもなく、そのまま20分ほど急な斜面を登る。一休みしたときに、自分の考えてきた尾根が南隣にあるのに気づく。いずれ合流するのでそのまま進んだ方が速いのだが、自分なりのルートにこだわってみたいので戻って、計画通りの尾根に取り付く。30分ほどのアルバイトとなった。

 越える最高ピーク手前で二人のトレースと合流する。そこからは、これから辿る西尾根の全容と頂上との初対面である。反対側の東面に急崖を巡らせる山容と同じ山とは思えない姿ではあるが、上の方に見える崖状の急斜面が気になる(2)そこから釜別川へ下るのだが、トレースはまもなく尾根から沢地形の中を下って行く。こちらは、そのまま利用させてもらうが、両側の急斜面に雪崩れたと思われる痕跡もあって不気味な感じがしないでもない。

 やがて、釜別川の林道へ出る。200mほど川上へ進むと、川を挟んで西尾根の末端である。ちょうど川へ下る林道も付いている。二人のトレースはその少し先で終わっている。釜別川の渡渉地点は、かんじきを着けたままの長靴であっさりと渡ることができた。しかし、これから雪解けが進むと水量が多くなることが十分考えられる(3)渡り終えた地点で、靴をプラブーツに換え、念のため持ってきた合羽ズボンや沢用のソックスとスパッツを長靴と一緒にそこにデポする。

○途中のナイフリッジで撤退も考えたが、下の斜面をトラバースして頂上へ
 
 あとは頂上へ繋がる尾根を辿るだけである。トドマツの人工林の中を抜けて、ブナ林の尾根を登る。493ポコからは594ポコの上の方に見える尖った急斜面が気になる。その右奥に頂上と思われる白い稜線も覗く(4)特に緊張場面もなく淡々と広い尾根を登っていく。594ポコもその先の急な登りに気を取られているうちに気づかないで通過してしまった。

 いよいよ一番急な700〜750mの下に差し掛かる。尖った岩頭ピークが750m付近である。尾根をそのまま登るにはあまりにも急である。ちょうど左側から合流する尾根がやや緩やかなので、そちらへトラバースして登っていく。しかし、ピーク手前はもの凄い急登である。慎重にステップを刻みながら、周りに少し生えている灌木の枝を頼りになんとか登り切る。

 一難去ってまた一難、そのピークの先は地形図では平坦になっているが、ここが曲者で、Saさんの話していた両側が切れ落ちているナイフリッジの痩せ尾根である。彼の時は雪がだいぶ落ちていて周りの灌木や笹に掴まりながら通過できたらしいが、今は、立つ幅もない細さで、おまけに雪庇が交互に張り出している。左側を覗いたら明らかにオーバーハングになっている。10mほどは周りの灌木に掴まりながら這うようにして進んだが、その先はとても無理である(5)

 「ここで終わりか、縁がなかったということか・・・?」と、覚悟してきただけにあっさりと撤退を決め、直ぐに這うようにしてピークまで戻る。そこも落ち着かないので、緊張して登った急斜面の下まで滑るように下って、何気なくナイフリッジの痩せ尾根の下の斜面を覗く。狗神様は見放さなかった。滑落や雪崩の危険性がないわけではないが、トラバースして、ナイフリッジの岩稜をかわして上の尾根に出られそうである(6)(下山時に撮影したのでトレースが見える)。撤退を決めた痩せ尾根は下から見上げると、オーバーハングした岩稜帯であった。







   800m付近で尾根に戻ることができ、ホッとするが、北側に見える恐ろしいほどの迫力で天を突く頂上稜線上の岩峰に圧倒される(7)その先にも、苦労したものすごい急登やなんとか低い姿勢で突破できたナイフリッジもあったが(8)ときどき姿を見せる頂上に近づいていくことができた。

  やがて、南側に岩壁を向けた頂上が見えてくる。ゴールは近い(9)雪庇を踏み抜かないように木の生えている際を一歩一歩辿って長い間の念願だった頂上に立つ。途中2度ほど戻ったりして50分ほどのアルバイトはあったが、下の濁川地区からであろうか、どこからともなく聞こえてくる微かな昼のサイレンに迎えられての12時ちょうどであった。


 








 360度の眺望がすばらしい。南側には澄川の流域を取り囲むように連なりこの山の南尾根に繋がる稜線の向こうに駒ヶ岳(10)、その右側に横津岳も見える。北側には、岩峰を連ねる稜線とその右側に濁川盆地とその先には内浦湾が広がる(11)しかし、羊蹄山やニセコ連峰は霞んで見えなかった。
さらに登ってきた西側を眺めると、乙部岳と鍋岳が、その手前の谷間にスタート地点となった山蕗駐車公園、さらにはそこから越えてきた釜別川までの尾根も見える(12)。その右奥には、遊楽部山塊ははっきりしないが、その前の岩子岳〜ペンケ岳や砂蘭部岳〜横岳などが見える(13)南側は崖となっていて雪庇の間からしか覗くことができないが、SHOさんたちはよくここを登ったものだと驚いてしまう。、

○登りの半分近い3時間弱での下山

 登りのトレースを辿るだけの急な下りは速い。登りで2時間も掛かった594ポコまでわずか40分で下ってしまい。改めてその上の登りのきつさを実感する。さらに、尾根取り付きから3時間半が、下りでは1時間半であった。

 釜別川で待っていた長靴他をリュックに詰め込んで、かんじきを履いたプラブーツのまま浅い石を伝って渡渉する。乗っ越し尾根のピークで、登った西尾根と頂上をじっくりと目に焼き付ける。登る前の眺めと下山後の眺めは同じでも、そのプロセスの想いが付加されるので、ぐっと身近なものに見える。釜別川から1時間半でゴールイン。駐車公園への道々から来し方を見ると、往きでは気づかなかったが、苦労した700m付近から上の尾根と頂上が覗いていること気づいた。帰りは、銀婚湯温泉に寄り、さらに、日没前だったので濁川へも寄り、東側からの狗神岳を写真に収めて帰宅する。

 早速、明日トライするというUさんとKaさんとTaさんの3人のために、GPSのトラックログを送り、Uさんに電話でお礼を兼ねて詳しい情報提供をする。登りたいけど登れないだろうと思っていた念願の山への単独での自分で見つけたルートでの登頂だっただけに、祝杯も進んだが、久しぶりの8時間半もの山行で疲れと興奮で、なかなか寝付けなかった。

 翌日、この記録を書いている最中の11時に、頂上から「無事登頂」の電話が入って、あまりの速さにビックリした。彼らの言うことには、迷わず私の最短のトレースを忠実に辿ったので速かったとのことである。他人の役に立つと言うことはうれしいものであると同時に、同じ想いを翌日に共感できる幸せをしみじみと感じた次第である。 


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