エサオマントッタベツ岳(1920m) 
エサオマントッタベツ川本流コース 単独  00,8,10〜11
 
長い沢歩きとカールから稜線への悪戦苦闘の間違いルート、増水の濁流逆巻く中の肝を冷やす下山・・・・日高の厳しさと醍醐味を体感する。

登山     地   点下山
 5:10
 5:50
 6:10
 8:15
10:30
(休憩)
11:00
13:25
(休憩)
14:20
14:50
エサオマントッタベツ林道分岐
入渓地点
ガケの沢出会い
997二股
北東カール

北東カール 
札内分岐東側テン場

札内分岐東側テン場
エサオマントッタベツ岳頂上
12:30
11:45
11:00
8:00
6:30
(休憩)
5:15
4:30
(テント泊)
15:25
14:55
[9:40] 所要時間(含休憩)
[8:30]
 
林道から望む札内岳前日、函館を11時に出発し、9時間以上走行し、海霧性の雨が降る夜の十勝平野へ。芽室町の新嵐山荘で入浴し、そこの駐車場で朝を迎える。天気予報はいいのにガスがかかり雨が降っている。諦め切れずに、登山口まででも行ってみようと思い、戸蔦別林道を走って行くと、ガスが切れ、快晴の下に戸蔦別岳が林道の正面に見えてくる。

 予定通り、エサオマントッタベツ岳〜札内岳一泊縦走の予定で、林道分岐に車を置いてエサオマントッタベツ川本流沿いの林道を進む。足は新しく購入したスパイク付き地下足袋である。足元が軽く、すっきりした気分である。入山届に1日前に入山している今年1年だけ函館に住むことになっている伊藤健次さん(写真集「日高連峰」、「大雪山を歩く」「北海道林道の正面に見えるエサオマンの山」ほかの著者で、日高山脈冬季単独縦走をした方)の名前を発見。暫く行くと函館ナンバーの車がある。中を覗くとなんと伊藤さんと同行しているのは、私が春に彼に引き合わせたMさんとその友人のOさんのようである。彼らとの出会いの楽しみも増え、快晴の清々しい早朝の林道を進む。歩き始めてまもなく目の前に札内カールを抱いた札内岳が(1)、しばらく進むと今度は北東カールを抱いたエサオマントッタベツ岳がその端整な姿で迎えてくれるのがうれしい(2)。
沢とエサオマン
○快適な5時間半もの長い沢歩き

 40分ほど林道跡を歩くと、そのまま川に出る。そこから赤いテープに導かれて膝下くらいの徒渉を繰り返し、右岸・左岸にある踏み跡や高巻き、そして川の中の石を伝いながら快調に進む。ずっと目指すエサオマンの北東カールとその頂上を眺めながらの歩きは励みになるものである。(3)
997上の沢
 6時半を過ぎると沢の中にも太陽の光が入ってきて気持ちがよい。少しずつ川幅が狭くなり、川の中の石や岩が段だん大きくなってくるのが高度を上げてきている証拠でもある。天候もいいし、時間的な余裕もあるので、休むときは珍しく15分ほども休みながら、ゆったりした気分で上を目指す。

 スタートしてから3時間少々で 997の上二股に到着。ここからがこの沢の正念場である。水の流れの音に身を置き、のんびり休憩する。一歩一歩の落差が大きくなりどんどん高度を稼ぐようになる(4)滑滝の中を行くやがて、カムエクの八の沢カールから流れ出る連続する白い帯状の滝を思い出させるような地点へ到着。この辺りから快晴だった稜線に北側から押し寄せる白い雲が気になる。しかし、頂上を隠すようなことはない。連続する滝の横の高巻きを慎重に越えると、登りで一番楽しみにしていた延長 300mの滑滝の中の歩きである(5)。小さなでこぼこがスパイク付き地下足袋でも滑ることなく結構フリクションが効いて、それほど心配のない歩きである。しかし、予想していたより、傾斜がきつく転んで滑り落ちたらと思うと、慎重にならざるを得ない。滑りそうなところは縁の方を歩いたりしながら、やがて北東カールに入って行く。

 北東カールスタートしてから5時間半もの長い沢歩きは初めての経験である。雪渓は残っているが、テントも人影もない静かなカールである。右上には端整なまさに鋭峰が天を突き、その左側に垂直に切り立つカール壁が屏風のように連なっている(6)。花は雪渓のすぐ側にまだ蕾のアオノツガザクラ、草付き斜面にはウサギギクとハクサンボウフウが目につくくらいである。

○ルートを間違い、冷や冷やの岩登り状態と悪戦苦闘の薮漕
稜線へのルート(正しくは途中から左へ)
 カールから稜線へ出るルート選択がこの山の一番のポイントである。あちこちにあるルンゼを目掛けて微かな踏み跡が続いている。しかし、頂上に近いほど急で難しいルンゼのようである。これまでに集めた情報をもとに、一番楽な一般コースといわれる札内分岐ピークの東寄りに1時間ほどで出るというルートを選択し、30分ほど休み、4リットルの水を新たに背負い、草付き斜面の中の踏み跡を辿る。
ナンブイヌナズナ
 ここで、大きな間違いをしたことに後で気付くことになる。札内分岐のすぐ東側まで源頭を突き上げているルンゼ地形をそれだと思って登っていく。(写真に二つの切れ目が見えるが、正規のルートは左側の切れ目)(7)見上げると上の方はかなりの急傾斜であるが、なんとかなるであろうと登って行く。ところが、微かに水が流れるその沢はどんどん傾斜を増し、余り人の歩いた気配がなく、岩登り状態になっていく。まさに三点確保で手を掛ける岩の出っ張りや、足をかける出っ張りを探しながらの必死な登りである。30分以上登ってから、「これはおかしい、こんな一般ルートがあるわけがない。どこで間違え野だろう? 戻ろうか・・・」と下を見下ろしたら高所恐怖症の自分にはもう降りられる状態ではない。登りは目の前の出っ張りを探しながら下を見る必要がないが下りはそうはいかない。安心できそうなところで休憩しては、何度も躊躇しながら、その度にもう登るしかないと諦める。手をかけようと思った岩が崩れる。足をかけた岩が崩れ落ちて、その度に谷底まで物凄い音を立てて落石して行く。ふと自分の滑落する姿を連想して鳥肌が立ち、体がこわ張る。それでも、目の前の岩場に大きな株になって咲いているあまり目にすることのないナンブイヌナズナ(8)をカメラに収める余裕もまだある。
稜線下からのエサオマン
 本来ならすでに稜線に出ている筈の1時間を過ぎてもまだ半分くらいである。垂直に近い岩壁状態のところでついに進退極まる。泣き出すわけには行かない。「ヘリで救出」が頭に浮かぶ。携帯は圏外だし、無線は車で充電したまま忘れてきたし、カールを見下ろしても誰も見えない。まず、落ち着くしかない。いろいろ思案を巡らす。その結果「命の心配のない左側の藪に入ろう。時間と体力があればなんとかなるであろう。」との結論に達したが、その藪までのぺろんとした急な草付き斜面を横切るのが怖い。草の根元を掴んで草の下に隠れている岩を足掛かりに恐る恐るトラバース。命の心配から解放されほっと一息つき、端正なエサオマンの頂上を眺めながら(9)じっくり休憩する。しかし、その藪はナナカマドの長い枝が下を向いて入り組む厄介な藪である。比較的薄いところを狙って体全体で掻き分けながら、さらに1時間程度悪戦苦闘の末、ようやく先程の源頭の花畑状態のところに出る。そこにはウサギギク、ミヤマクワガタ、オドギリソウ、ミヤマリンドウ、タカナキタアザミなどが咲いていて、ジグを切るように微かな踏み跡が着いている。同じように間違って登ってくる人もいるのであろう。やがて実にカールから2時間半、ようやく稜線に出る。そこは札内分岐ピークのすぐ下で、あった。それでもまだ余裕の 13:30であるのがうれしい。


つづく

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