[8]  芦別岳 (1727m)   
 2回目[ 新道コース〜旧道コース]  1997、6、15

快晴の下、雪渓にてこずりながらも、早い花々と北尾根からの鋭鋒に大満足
 
3:45 起床(太陽の里キャンプ場)
登り (新道コース)
4:30 新道コース登山口
5:35 見晴台
7:00 半面山
7:45 雲峰山
8:45 頂 上
[4:00] 所要時間
下り (旧道コース)
 9:30 頂 上
11:45 北尾根末端 
12:00 夫婦岩分岐
12:30 ユーユレ分岐
14:10 新道コース登山口
[4:40] 所要時間

14:45 占冠・湯の沢温泉(入浴)
22:00 帰宅(函館)

 5年ぶりの再訪である。今回は、前回恵まれなかった頂上からの眺望と、北尾根からの「北海道の槍」の眺めにこだわっての計画である。
 前日は、計画通り、旧道コースから登り、北尾根から頂上にアタックし、新道コースを下る予定で出発するも、北尾根に上がったら、濃いガスにまかれ、次の日に期待して、やむなく撤退。キャンプ場で夜を明かす。

 3時半過ぎ目が覚める。「晴れときどき曇り」の天気予報にしては、上空一面曇り空。しかし、昨日と 反対に、西側の目指す山の上の方に晴れ間が覗く。絶対 晴れるという確信を持って準備に掛かる。
昨日と反対に、新道コースを登り、旧道コースを下ることに計画を変えて、4時半、朝日に輝く山を眺めながら、新道コース登山口を出発。

 昨日の旧道コースとは違い、踏み慣らされた快適 な尾根道である。しかも、起伏がまったくなく、一歩一歩が確実に登りだけなのがうれしいし、次の足をどこに下ろそうかと考えたり、探したする必要がない。 本来は旧道コースのように変化に富んだ登行の方が自分好みではあるが、昨日の今日はこの方がうれしい。 ぐっすり眠ったせいか、むしろ昨日より快調のようである。樹間から朝日に輝く夫婦岩や槙柏山が覗く柔らかな新緑と小鳥の爽やかな囀りの中、昨日と違うゆったりとした登行を楽しむ。
 
 そんな登行にふと人生を考える。人生は、試行錯誤を繰り返したり、登ったと思ったら、下ったり、思わぬ障害が現れたり、喜びがあると思えば苦しみもある。それが、昨日の旧道コースに似ている。しかし、今日の一歩一歩は確実に上へ向かい、無駄がないような気がする。たまには、こんな淡々とした人生もいいなと思ったりする。「山は哲」と言った人がいるが、これも、そのひとコマだろうか。

 北尾根の眺め 1時間一度も休憩すること無く、見晴台に到着。富良野盆地の上空も確実に晴れ間が広がり、その雲海の向こうには十勝連峰がくっきりと姿を見せている。まもなく、足元が垂直に切れ落ちる稜線に出る。谷の向こうには昨日辿った旧道コースのユーフレ川や夫婦沢の沢地形とその両側に鋭く聳える槙柏山と夫婦岩、そして北尾根(1)、手前に鋭く聳える屏風岩などが快晴の空の下にくっきりと見える。谷底から吹き上げる爽やかな涼風、小鳥の囀り、最高の青空・・・昨日の悔しさを取り返して余りある気分である。

  まもなく、これから辿る半面山と雲峰山が見えてくる。5年前、ガスの中の下りで半面山からちらっと頂上が見えたことを思い出す。もう少しで目指す頂上が見えるはずと心は急ぐ。半面山の手前で、雲峰山の左後からその頂上岩峰が姿を現す。 ヒバリに似た黒い小鳥とウグイスの囀りに迎えられて、半面山に到着。標識の付いた枯れ木にぶら下がる鐘を思いっ切り鳴らして、一休み。

 そこから少し下って進む熊の沼一面から雲峰山山腹のほとんどが大雪渓で覆われていて、登山道が見えない。5年前の記憶を辿り、上の方の笹藪に微かに見える登山道らしきところを目指し、雪渓を真っ直ぐ登る。上の方を登っていると、下から鈴の音が聞こえる。振り向くと一人の男性がストック両手に確実な足取りで直登してくる。多分アイゼンも着けているのだろう。雪渓上部の方は結構急斜面でてこずりながらも30分近くも雪渓を歩く。これ程大きな雪渓歩きはこれまでで始めてである。このコースを下るならスキーのような雪渓滑りが楽しめるはずである。

 前回より1時間遅れのゆったりしたペースで雲峰山に到着。目前の頂上岩峰や、5年前も昨日も目にすることのできなかった、一本一本のルンゼに雪を詰めた本谷の岩稜群、昨日歩き損ねた北尾根核心部の岩峰群などの大展望を眺めながら、一息入れる。 頂上までのルートを目で辿る。夏道なら、あと30分もあるとその上に立つことができるのであろうが、頂上直下の急な大雪渓が手強そうである。とにかく、何とかなるであろうと出発する。

頂上にて、夕張岳をバックに その急な雪渓の下に着く。まず、直登を試み、キックステップを繰り返しながら 10m位登ってみるが怖くなる。ストックもアイゼンもなく直登するには、できなくもないがあまりに急で、滑落したら奈落の底である。谷側の稜線の笹藪を詰めて、頂上岩峰に取り付く方法が安全そうである。どちらにしても一人なら不安である。後ろからやってくるストックを持った男性を待つことにして、そこで20分程休憩する。

 その男性が雪渓の下に到着する。その男性は、「この笹藪をやりましょう。」と下から声を掛けてくれる。現金なもので、決まると元気が出る。その地点から、急な雪渓をトラバースして、その男性より 20mほど上の方から笹藪に取り付く。両手でしっかり笹を掴み体を持ち上げたり、時には雪渓の端の方や伸びている木の枝に掴まりながら登ると岩場の下に出る。この岩場はどうしようと良く見ると、踏み跡が付いている。ほっとして、その踏み跡を辿るとあっけないくらいの感じで頂上へ飛び出る。もちろん一番乗りである。

 一番先に目に入ったのが夕張岳である(2)。直ぐに昨日引き返した北尾根の大きな起伏を繰り返す細く険しい稜線を目で探り、昨日止めたのが正解であると胸を撫で下ろす。 まもなくその男性が到着。「凄い!羊蹄山も見えますよ。」と言うその声につられて、思わず遠くを見ると確かにそうである。その後、二人で山座同定を楽しむ。 はるか西側に羊蹄山を初め札幌近郊の山々、東側の方には雲海の上に大雪連峰と十勝連峰、その後ろにニペソツなどの東大雪の山々、さらに南には、やはり雲海の彼方に日高山脈・・・。
 
 その人は、「5回程この山を訪れているが、こんな天気ははじめてです。」とうれしそうに話す。こちらも、その人にはびっくりされたが、「昨日に引き続き再挑戦した甲斐があった」とうれしくなる。

ツクモグサ  さっそく、二人で写真を取り合っているうちにツクモグサ(3)を見つける、写真でしか見たことのない花とのうれしい対面をする。淡い黄色の花びらの中に黄緑色の雌しべや雄しべの花で、いかにも高山植物の花という感じの花である。 そううこうしているうちに年配の元気な二人連れが到着。頂上は4人になる。 結構あちこち登り歩いているらしい、48歳の、住まいは札幌で、旭川に単身赴任しているという先程の男性といろいろ山の話をしながら食事を摂る。旧道コースを下ることを話すと、「まだ旧道コースは一度も歩いたことがないので、足手まといになるかも知れませんが、ご一緒していいですか?」と聞かれ、即座に同意する。脚力が同じ程度の人なら、一人より二人の方が、心強いし、楽しいものである。

 9時半ちょうどに下山開始。急な岩場のはっきりとした踏み跡を、ツクモグサ、キバナシャクナゲ、ミヤマンキンバイ、エゾノハクサンイチゲ、蕾状態のエゾルリソウなどの花々や楽しみながら、これから咲くであろう花々が準備する花畑の中を下る。 雪渓を横切り、北尾根の道に取り付く。足元から切れ落ちる本谷の迫力も凄いが、振り返って見上げる頂上岩峰の迫力も凄い。あの尖った上に、自分たちがさっきまでいたことが信じられないくらいの鋭さである。

 本谷コースの雪渓の頂上近くの急斜面を二人がゆっくり登っている。思わず「頑張ってくださーい」と声を掛けると、向こうからも反応がある。さらにずっと下の方に3人登って来る姿も見える。ウペペサンケで一緒になった富良野市役所のSさんの話を思いだす。5月下旬に本谷コースからの登山会があるらしいが、雪の緩み具合からしたら、今頃の方が登りやすいのではなかろうか。今度の芦別岳挑戦は、ストックとアイゼンを用意して、絶対この本谷コースと決める。同行の男性も同じことを言っていた。

北尾根からの芦別岳頂上 昨日歩き損なった北尾根コースの核心部は、起伏の激しさも凄いが、足元の花々がこれまた凄い。頂上下で見た花のほかに、イワベンケイ、タカネザクラ、コケモモ、チシマアマナ、チングルマ、これも早い花でなかなか目にできないウラシマツツジ・・・恐らくあとひと月もしたらもっともっといろいろな花が咲いているに違いない。 そんな花々や、離れるにつれて、その姿がますます鋭くなり、北アルプスの槍ヶ岳を思わせる山頂の姿や、その下に広がる本谷の様子を楽しみながら、登り返しを何度も繰り返す下山を続ける。とくに頂上の鋭峰の姿を見たくて旧道コースの北尾根にこだわっただけに、何度も何度も振り返って眺めてしまう(4)。同行の男性も、旧道コースについて来て本当に良かったという気持ちらしく、凄くうれしそうである。

 この稜線は、花と険しさだけでなく、ダケカンバやハイマツの藪も煩い。とくに、びっくりしたのがミヤマハンノキの花粉である。触るだけで、むせてしまいそうな量の花粉が舞い、リュックや衣服が黄色になってしまう。 若い3人の男性が登ってくるのと出会う。「中高年が多い中で、このような若者と出会うとうれしくなる。」と同行の男性が言う。まったく同感である。
 

「雪渓の炎」  浅地氏画

途中の雪溪を下るときに、転んで滑落し、下のダケカンバにぶつかって止まる。何事もなくほっとする。無事であれば、このようなことも楽しい思い出になる。 やがて、昨日引き返した峰に到着。振り返ると、まだ頂上が見えている。そこから下り始めるとまもなくその姿が見えなくなってしまう。連れの男性は、始めて見上げる夫婦岩の迫力に驚きの声を上げている。 昨日歩いた余裕から、途中から雪渓を繋いで滑りながら下る。夫婦岩分岐で水を飲み、休憩。

 以下、昨日下ったルートをその男性と前後しながら、下山を続ける。ユーフレ分岐の手前で、根付いていると思って掴んだ木の幹が、根っこから抜けて大きな岩を抱くように頭から転落してしまう。どこも痛くなかったことが信じられない格好だっただけに、ほっとして下山を続ける。(しかし、帰りの運転中、左脇腹に痛みを感じる。ぶつけた記憶がないだけに、岩の上にそれを抱く格好で落ちたこのときに、肋骨をやってしまったらしい。帰宅して、夜中に寝返りを打ち、余りの痛さに目が覚めた。経験から2か月ほど我慢の日々である。)

  ユーフレ分岐で休憩し、疲れた足にはきつい大きな高巻きを繰り返し、登山口を目指す。およそ10時間の行程のゴール。同行の男性から、「どうもありがとうございました。とても楽しい山行でした。」とお礼を言われ、着替えて帰途に就く。

  北尾根からの眺めにこだわった執念の2日間、結構きつい山行であったが、快晴の空をバックに聳える山に向かい「今度来るときは本谷コース挑戦」と心に決めて、満足感と充実感と快い疲労感に酔いながら登山口を後にする。途中、これも連日の占冠・湯の沢温泉で汗を流し、6時間半ほぼノンストップで車を走らせる。


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